天の時は地の利に如かず
投資信託「おおぶね」のメンバーズサイトに掲載された記事で、掲題の言葉が引用されていた。
この言葉は中国の古典「孟子」の一節である。
戦争において重要な三要素、天の時・地の利・人の和の優先順位を示したものとされる。
「おおぶね」では投資先選別の基準として、“天の時”よりも“地の利”を重視する。
あくまで「構造的に強靭な企業」に長期投資するファンドなので、たまたま天を味方につけた企業が投資対象になることはない、という。
株式投資での“天の時”とは、時流の追い風を受けることだろう。
コロナ禍のような社会環境の急激な変化によって、特需に恵まれることが典型的な例だ。
政府が打ち出した政策によって、需要が一気に盛り上がることもそうだろう。
〇〇ブームで特定の業界が脚光を浴びることも、これに該当する。
一方、“地の利”とは、企業自身の地道な取り組みによって築かれた参入障壁、競争優位性と理解すればいいだろう。
他社が容易に真似できない技術、顧客との強いリレーションシップ、圧倒的なブランド力、充実した販売・メンテナンス体制などがその代表例だ。
確かに、“天の時”を得た企業の株価が急騰した場合、時間とともに勢いを失い、やがて大幅に下落してしまうことが少なくない。
当サイトでも「成長株の株価暴落が怖い」シリーズで株価が大きく下がった事例を多数取り上げてきたが、そもそも株価が上昇したきっかけは、何らかの外的要因で投資家の人気を集めたからであった。
当該企業のビジネスモデル自体が優れているケースももちろんあるが、「こういうご時世なら、こういう企業が業績を伸ばすに違いない」という期待に基づく人気が主因で急騰した例が大半だ。
コロナ禍下で人気を集めた株式銘柄も、今ではその多くが株価低迷に苦しんでいる。
“天の時”は長続きしないことが今回もはっきりと示された。
だから、“天の時”に着目する投資は、短期間で売却することを前提とした投資向きである。
私たちが資産形成を目的として長期投資をするのであれば、“地の利”をしっかり構築している企業を探すことが重要だ。
だが、個人投資家はじっくり研究が必要な“地の利”よりも、ぱっと見でわかりやすい“天の時”に動かされやすい。
「理由はなんでもいいから、株価が上がる企業を教えてくれ」という人ほど、そうだ。
だから、株価急騰→飛びつく→暴落→低迷→塩漬け、という失敗が繰り返されるのだろう。
なお、原典ではこのあと「地の利は人の和に如かず」と続く。
いかに競争優位が高くとも、人心が乱れて組織がガタガタになった企業は、長続きしないということだろう。
業績拡大は華々しいが、ノルマが過大で社員が疲弊していたり、不正や不祥事が繰り返されたりする企業にも近づくべきではない。
肝に銘じておきたい。