役に立つ投信の月次レポート

投資のヒント

ほとんどの投資信託では、月間の運用成果を要約したレポートを毎月公表している。
たいてい、当該投資信託の運用会社のホームページに行けば、無料でダウンロードすることが可能だ。
こうしたレポートをツールとして役立てることを考えてみたい。

筆者の場合、大きく分けて2つの点で活用している。

銘柄選びの参考にする

1点目は、ファンドがどのような株式銘柄を組み込んでいるかを見て、銘柄選びの参考にすることだ。
特に、国内の中小型株に投資する際には、中小型株を投資対象とする投資信託の月次レポートが有益だ。
中小型株ファンドに組み込まれている企業は、それぞれのファンドマネージャーが多数の企業を取材した結果として選ばれた企業である。
それは、財務の数字だけでなく、経営者の人柄、技術力の高さ、市場での競争力、今後の経営ビジョンなど、表面には現れにくい情報を踏まえたものと考えることができる。
情報収集力でプロにかなわない個人投資家としては、この情報を利用しない手はない。

もちろん、ファンドに組み込まれた企業の株価が必ず上昇するとは限らず、見込み違いということも結構あるだろう。
逆に、月次レポートが公表された段階では、すでに株価が大きく上昇して割高になってしまった後ということも珍しくない。
それでも、プロのファンドマネージャーがどのような企業を高く評価しているのかを知るだけでも、今後の銘柄選択にあたって非常に参考となる。

とりわけ、運用しているファンドマネージャーの個人名が明確になっている投資信託に絞って、毎月読むことがおすすめだ。
ファンドマネージャーを特定できる場合、その人の投資哲学がどのようなものかわかることが多く、自分の投資スタンスにマッチする人を探しやすいからだ。
成長株投資を得意とするファンドマネージャーもいれば、割安株投資に特化しているファンドマネージャーもいて、それぞれに個性がある。
いろいろな視点を知ることで、自分はどういう投資スタンスが向いているのかが見えてくることにもなるだろう。

ちなみに、私が毎月欠かさず読んでいるレポートとしては、苦瓜達郎氏がファンドマネージャーを務める投資信託の月次レポートがある。
苦瓜氏は、日経電子版や投資雑誌にたびたび登場する著名な方で、割安中小型株投資でその人あり、として知られる。
苦瓜氏の月次レポートでは、投資成果の報告だけでなく、毎回のように投資先企業の紹介があるのが面白い。
数字のスクリーニングだけでは知ることができない、隠れた有望企業が少なからず登場してくるからだ。

皆さんもぜひ、お気に入りのファンドマネージャーを探して、その人の月次レポートを読んでみてほしい。

株式投資の勉強になる

2点目は、レポートを読むことで株式投資の奥深さを勉強できることだ。

月次レポートは、型通りに数字を載せて通り一遍のコメントしか書いていないものが大半なのだが、中にはなかなか読みごたえのあるレポートも存在する。
現在の投資環境についての見方をファンドマネージャーが独自の視点で開陳してくれたり、投資決定の基本的な指針を解説してくれたりするものが少数ながら存在する。
先に挙げた苦瓜氏のレポートのように、個別企業を紹介してくれるものもある。

そのような代表例として、農林中金全共連アセットマネジメントの「農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね」をみてみよう。
このファンドは、米国株を主要投資対象とし、<付加価値の高い産業><圧倒的な競争優位性><長期的な潮流>の3つの基準を満たす、持続可能なキャッシュ・フロー創出能力を有する「構造的に強靭な企業」に長期厳選投資を行う。
投資先は先月末時点でわずか27銘柄と、非常に少数に絞り込んでいるところがユニークだ。
現在の組入上位銘柄には、ウォルト・ディズニー、コルゲート、ビザなどが名を連ねている。

このファンドの月次レポートは、運用コメント欄が並外れて充実している。

たとえば、2020年9月発行の月次レポートでは、ブランド企業への投資について、実質的に運用を担当する農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)の考え方が4ページにもわたって披瀝されている。

ブランド企業は、ブランドの価値が希少性に由来する一方で、企業として成長し商品が普及することにより希少性が失われていくという矛盾を抱えている。
このような「ブランド企業が直面する希少性(付加価値)と成長性(長期的潮流)のジレンマ」があるため、ブランド企業への投資は簡単ではないとNVICでは考えている。
このジレンマを克服することに成功した会社こそ、長期投資対象としてふさわしい。
そして、ジレンマを克服する強靭なビジネスモデルを有している例として、エルメス、ティファニー、フェラーリの3社を詳しく紹介している。

この部分だけ読んでも、並の投資本では到底知り得ない投資の難しさと面白さを実感できるのではないだろうか。
他の月でも、コロナショックに対する対応についていち早く表明(2020年4月)、コストコへの投資を決定した根拠についてわかりやすく説明(2020年5月)というように、個人投資家にも役立つ情報が満載だ。

私は、この月次レポートを読むようになってから、当ファンドの考え方に共感し、確定拠出年金(iDeCo)で積立投資をしている。