「ゲームは水物」の常識を覆す戦略とは?~カプコン

ビジネスモデル

ゲーム会社は業績の変動が大きいことで知られる。
ゲームソフトの制作には長い時間と労力がかかるが、直接的な製造コストは小さいから、増産することは簡単である。
結果として、新作タイトルが大ヒットすると莫大な利益が入ってくるが、販売が低迷すれば開発費用を賄うことすらできないことがある。

ハードウェアの技術が進歩し、グラフィックの表現力が飛躍的に向上するとともに、ゲームソフトの開発コストもどんどん巨額化している。
開発に1億円超を掛けたゲームも珍しくない。
ゲームの売れ行き次第で、業績が大きく左右される傾向が強まっているのだ。

安定的に利益成長を続けるカプコン

「ゲームは水物、だからゲーム会社の業績は安定しない」
そんな常識を覆して、業績を持続的に伸ばしているのが株式会社カプコンだ。

カプコンが先日に公表した決算短信によれば、2024/3期は売上高・営業利益とも過去最高だった。
営業利益は、なんと11年連続の増益である。
ゲーム会社がこんなに増益を続けるのは異例だ。

資料:2024/3期のみ決算短信、他は有価証券報告書

同業であるバンダイナムコホールディングス(以下、バンナム)やスクエア・エニックス・ホールディングス(以下、スクエニ)が大幅な減益に沈んだこともあって、カプコンの安定ぶりが一層目立つこととなった。

この業績格差は株価にも如実に反映されており、コロナ禍以降の株価の推移は、カプコンの独り勝ちといってよい様相を呈している。

株価の変動(週足終値・2020年1月6日~2024年5月24日)

注:2020年1月6日を基準とした変動率

驚異的な高収益体質

なぜ、カプコンは利益成長を持続できるのか?
その理由を知るために、財務データを深堀りしてみた。

わかったのは、カプコンは他社に比べて非常に高収益な財務体質を構築することに成功している、ということである。

ゲームソフト事業のセグメント利益の推移をみると、カプコンは増益が続いているだけでなく、2023/3期にはバンナムやスクエニを追い抜いている。
売上高ではバンナムがカプコンの3倍以上、スクエニが2倍以上の規模であるのにもかかわらず、だ。

当然、売上高営業利益率は極めて高く、50%前後という驚異的な水準である。
スクエニやバンナムとは次元が違い、同業とはにわかに信じられない。

デジタル販売と過去作の比率の高さが鍵!?

驚異的な高収益体質の秘密は何なのか?
カプコンの決算説明資料に掲載されていた下図が解く鍵になりそうだ。

資料:カプコン2024年3月期決算説明資料

まず、デジタル販売が販売本数の大半を占めている、という事実である。
パッケージ販売であればパッケージの印刷や流通にかかるコストが必要だが、インターネット回線でのダウンロードではほとんど不要になる。
当然、販売1本当たりの利益は大きくなるわけだ。

先に掲げたカプコンのP/L推移のグラフで、2020/3期に売上高が大きく減少していることに気付いておられるだろうが、実はこのときにパッケージからデジタルへの移行を強力に推し進めていた。
結果として、デジタル化で販売単価が下がったために売上高は減少したが、利益率上昇によって逆に利益は増加している。

もちろん他社でもダウンロード販売の比率は高まっているはずだが、おそらく、カプコンは最も積極的にデジタル化を進めているのではないか。
家庭用ゲーム機だけでなくパソコンでの利用もターゲットにし、STEAMなどPCゲームのダウンロードサイトで販売しているからだ。

もうひとつの特徴が、リピート作比率、すなわち過去作の比率が高いということである。
しかも2020/3期に一気に比率が跳ね上がっている。
デジタル販売に軸足を移したことにより過去作を売りやすくなった、ということのようなのだ。

パッケージ販売の場合、店頭のスペースには限りがあるから、どうしても話題になりやすい新作タイトルを中心に並べることになる。
まだまだ需要があったとしても、過去作は脇に追いやられることになりがちだ。
デジタル販売なら、そんな心配もなく過去作を売り続けられる。

過去作は開発費用の費用計上処理がすでに終わっていることが多いから、売れればほとんどが利益になる。
過去作の比率が上がるほど、利益率は高くなるのである。

他社が新作タイトルの動向に業績が左右されやすいのに対し、カプコンは過去作を着実に販売して利益率を高め、増益を続けているという図式が見えてくる。

グローバル市場で息長く販売するビジネスモデルを実現

こうなると、カプコンの過去作が売れ続けるのはどうしてなのか、という疑問が湧く。
これには2つの要因があるように思う。

1つ目は、いたずらにタイトルを増やさず、世界的な人気作に経営資源を集中しているということである。

カプコンの代表作といえば「ストリートファイター」「バイオハザード」「モンスターハンター」の3つだ。
いずれも世界中に多くのファンがいて、シリーズのどの作品も高い人気を誇る。

驚くのは、何年も前に発売された作品が、いまだに年間100万本以上売れていることである。
例えば、2017/3期発売の「バイオハザード7 レジデント イービル」が2024/3期に至っても130万本、2018/3期発売の「モンスターハンター:ワールド」は280万本も販売を記録した。
これだけ息長く販売本数が落ちないのは、他社ではあまり見られない現象だ。

加えて、過去作のリメイク版や拡張版が販売されて、それがまたヒットするという好循環が生まれている。

資料:カプコン2024年3月期決算説明資料

一方で、現在のゲーム市場の主流であるモバイルゲームに関しては、販売実績は極めて少ない。
あえてモバイルゲームを避け、家庭用ゲーム機とパソコン(PC)向けに経営資源を集中しているといってよいだろう。

2つ目は、海外市場の開拓に積極的に取り組んでいるということである。

連結売上高の地域別構成をみると、バンナムやスクエニでは国内が過半を占めるのに対し、カプコンは海外売上が6割強に達している。

2024/3期のゲーム販売本数でみれば、国内の比率は17%しかない。
しかも、前年比マイナスとなったのは日本だけで、海外は堅調に推移している。

PCプラットホームでの販売に注力し始めたのは、家庭用ゲーム機が普及していない途上国でもユーザーを増やす狙いがあったという。

海外市場を深耕することで過去作をプレイする新たなユーザーを掘り起こし、過去作が息長く業績に貢献する戦略をとっているわけだ。

このようにして、カプコンは「新作ゲーム次第で業績が変動する」というゲーム業界の常識を覆し、優れた過去作を高収益コンテンツとして育て、収穫するという道を切り拓いたのである。

今後は、プラットホームを超えて対戦できるクロスプレーへの対応を強化するようだ。
また、映画やアニメなどの映像コンテンツへの対応強化、eスポーツの振興、人気スポーツへのスポンサーシップの推進等によって、持続的成長のための戦略を強化していく方針だ。
「ワンコンテンツ・マルチユース戦略」とカプコンが呼んでいる経営戦略がどのような成果を生んでいくか、興味が尽きない。

カプコン

Posted by Uranus