円安に個人投資家はどう動くべきか

投資のヒント

3月以降、外国為替市場では円安があっという間に進展した。
何度か揺り戻しはあったものの、ほぼ一貫して進み、4月28日には一時1ドル=131円台をつけた。
130円を超えるのは20年ぶりのことだそうだ。

米ドル/円相場(単位:円)

当分は円安が続く見通し

背景には、日銀が金融緩和姿勢を堅持している一方で、米国FRBはインフレ警戒から政策金利の利上げを明確にしており、日米間でいっそうの金利差拡大が予想され、ドル買いを誘発しやすくなったことがある。
さらに、実需面でも我が国の貿易収支赤字は拡大しており、それが円売りを増加させることにつながりやすい。

2月に起こったロシアのウクライナ侵攻以降、小麦などの食料品、石油や天然ガスなどのエネルギー資源、空運・海運の運賃など幅広い分野で価格上昇が顕著になっているが、円安がいっそう拍車をかけた形となった。

いっこうに止まらない円安に対して、家計や企業への打撃が心配されている。

市場関係者の多くは、当分の間、円安は続くだろうと予想する。
日銀もFRBも、すぐに金融スタンスを変える可能性は乏しく、日米間の金利差の拡大は止まらないとみられるからだ。
政府による市場介入も、実際に各国の理解を得て踏み切ることは難しいと考えられる。
「口先介入」以外に日本側から打つ手はないのが現状だ。

円安は日本株にとってプラス?マイナス?

急激な円安は我が国にどのような影響を与えるのか?
株価はどのように反応するのか?
個人投資家としては、関心が尽きないところだろう。

これについては、専門家の間でも、意見は分かれているようだ。

円安をネガティブに捉える意見は多い。
輸入物価の上昇が顕著になり、原材料費、燃料費等の上昇によるコスト増をすみやかに価格転嫁できなければ、企業業績に打撃を与えることは不可避な情勢だ。
とはいうものの、賃金上昇があまり期待できない状況で値上げが相次げば、家計の消費意欲を減退させ、かえって売上が減ってしまうリスクが大きい。
ようやくコロナ禍を克服して正常化を始めた国内景気が、また冷え込むことになっては元も子もない。

かつて輸出偏重だった我が国の経済構造が、貿易摩擦の時代を経て、グローバルな海外現地生産体制主体に切り替わってきたことも、円安が企業にとってプラスとは言い切れない要因の一つだろう。
円安になったからといって、輸出が飛躍的に増加するわけではないのだ。

一方で、円安は企業業績にとって総合的にはプラスになる、との見解もある。
楽天証券の窪田真之氏は、米国の景気が好調さを持続しているかぎり、日本企業の海外市場での収益が円換算で増加し、それは円安によるコスト増を上回ると考えている(3分でわかる!今⽇の投資戦略「『悪い円安』は誇張?円安が⽇本株にプラスと考える理由」楽天トウシル2022.5.10掲載)。
内需企業にはマイナスの影響があるが、コロナの影響が縮小してリオープン(経済再開)が進めば、消費回復による数量増でカバーできるのではないか、とも述べている。

日経新聞によると、想定為替レートを開示している上場企業80社のうち8割が、2023年3月期の為替レートを120円以下に設定している(日経電子版2022.5.11付)。
現在の130円とは相当な開きがあり、円安が変わらなければ海外市場での利益が上ぶれする余地は大きいことになる。

こうしてみると、円安が企業業績にどのようなインパクトをもたらすかは、プラス・マイナス両面を個々の企業ごとに慎重に見極めなければならない、といえそうだ。

より気になるのは米国グロース株の低迷

実のところ、日本株にとって円安以上に問題となるのが、米国株の動向だ。

株価は内外とも軟調な地合いが続いている。
特に、米国のグロース株の落ち込みがひどく、NASDAQは2020年秋以来の12000ポイント割れと低迷している。

NASDAQ週足チャート(2022.5.11)

大幅な金融緩和で資金が流れ込み、活況を呈していた米国グロース株市場が、金融引き締めで一気に下げ相場へと転じたのである。
まだ下げ止まる気配がみられないのが不気味だ。

米国の景気減速が明確になっているわけではないものの、投資家はリスク回避に傾いている。
値下がりで安くなったから、と安易に手を出すのは危ない。

市場には「米国が風邪を引けば、日本は肺炎になる」という言葉があるが、米国株次第で日本株が大きく左右されるのは今も変わらない構造だ。
個人的には、こちらに注目していきたい。

Posted by Uranus