意外な副業(その1)~朝日放送グループ
時折、上場企業が本業と関係があまりなさそうな意外な事業を営んでいる事実を発見することがある。
事業の多角化やM&Aが盛んに行われる昨今、そうした話は不思議ではないのかもしれない。
が、それでも「なんで、この事業?」と思うことは少なくない。
そんな事例をご紹介していきたい。
シリーズの初回として取り上げるのは、朝日放送グループホールディングス株式会社(以下、朝日放送G)である。
言わずとしれた、大阪の民間放送局だ。
住宅展示場事業を営む
朝日放送Gの意外な事業、それは「住宅展示場の企画・運営」だ。
同社の100%子会社であるエー・ビー・シー開発が中心となって事業運営している。
てっきり、M&Aでもやった結果でグループ入りしたのかと思ったが、実は朝日放送が自分で始めた事業だった。
始まりは1966年だから、もう50年以上前のことになる。
移転したばかりの本社社屋の隣接地で、日本初の住宅展示場「ABCモダン住宅展」をオープンさせたのが最初なのだそうだ。
なんと、朝日放送が住宅展示場のパイオニアだったのだ。
ちなみに、Wikipediaの情報によれば、その跡地にホテルプラザが建ったらしい。
どうして住宅展示場事業を始めることになったのかは、有報にもエー・ビー・シー開発のWebサイトにも記載がないので、よくわからない。
1972年にはエー・ビー・シー開発が設立され、朝日放送より住宅展示場事業を継承する。
1978年に東京にも進出を果たし、同社は現時点では近畿エリア16会場、関東エリア7会場の計23会場を運営する業界大手に育っている。
安定的な収益で業績を下支え
グループ内での住宅展示場事業(ハウジング事業)の位置づけを確認してみよう。
セグメント売上高は2021/3期で129億58百万円なので、ちょっとした上場企業並みの規模である。
グループ全体の売上高に占める割合は16.5%。
昨年は一時休園を余儀なくされるなど、新型コロナウイルス感染症の影響を少なからず受けたが、不動産販売収入が前期を上回ったこともあり、増収を確保した。
セグメント利益は8億74百万円、前期に比べ20%強の減益となった。
それでも、グループ全体に占める割合は29.1%(セグメント間調整前)と結構高い。
2021/3期こそ、コロナ禍の影響もあって減益幅が大きかったが、それまでは概ね横ばいで推移していた。
注:棒グラフ=売上高、折れ線グラフ=営業利益額(単位:百万円)
出典:朝日放送グループホールディングス「2021年3月期決算説明会資料」
ご存じのように、スマホの普及、動画サイトやSNSの隆盛によって、若年層中心にテレビ離れが叫ばれている。
テレビ番組の視聴率は厳しい環境にあり、当然、主力事業である放送事業の広告収入は伸び悩んでいる。
そんな中で、安定的な収益をもたらす住宅展示場事業は、朝日放送Gにとって貴重な存在だといえそうだ。
なお、今年から始まった同社の中期経営計画では、住宅展示場事業は、ゴルフ場事業や通販事業等と統合して発足した「ライフスタイル事業」のセグメントに組み込まれた。
今後、単独での実績は追いにくくなるかもしれない。