新会計ルールによる変化に注意

投資のヒント

この4月から、新しい会計ルールが大企業に適用されている。
投資メディアではそれほど話題になっていないようにも感じるが、個人投資家が企業の財務分析をする上で、非常に重要なルール変更が含まれている。
そこで、この話題を少し取り上げてみたい。

重要な2つのルール

新しい会計ルールはいくつかあるが、個人投資家にとって重要なのは次の2つである。

「収益認識に関する会計基準」
「会計上の見積りの開示に関する会計基準」

前者は、これまで企業ごとにバラバラだった売上高の計上基準について、一定の包括的ルールを定めたものである。

後者は、企業が見積もった資産価値などの算定根拠を開示することを定めたルールで、固定資産の減損処理の是非などに密接に関わってくる。

いずれも、国際会計基準(IFRS)では既に採用されており、国内ルールをこれに合わせた形だ。

原則として、ルール適用を免除される中小企業を除いて、すべての企業は新ルールに従って財務諸表を作成することを求められる。

データの連続性が失われるかもしれない

これまでの日本の会計基準では、売上を「いつ」「どのように」計上するかについての包括的なルールは、明確に定められていなかった。
つまり、企業の裁量に任されていたわけだ。

各社がそれぞれの基準で計上していたため、同じビジネスモデルであっても、企業によって売上高の計上方法が異なることは、珍しい話ではなかったのである。

しかし、今回の「収益認識に関する会計基準」(以下、「新収益基準」)によって、各社が基本的に同一のルールで売上高を計上することになったので、企業比較がやりやすくなったといえるだろう。

ただ同時に、売上の計上ルールが変わってしまうことによって、過去からのデータの連続性が失われる懸念も顕在化してくる。
ビジネスの実態がほとんど変わっていないのに、売上高がガクンと大きく減少するということもありえるのだ。

このことを知らずに表面の数字だけを追っていると、業績が急変したと誤解することになりかねない。

企業のIRサイトにアップロードされる決算説明資料などには、参考値として旧基準による売上高が併記されていたり、基準を揃えた前期比増減が記載されていたりすることもあるのだが、決算短信だけを見ている人は、まったく気づかずに、単純な増減率に基づいて投資判断をしてしまうおそれがある。

見かけ上は大幅減収となることも・・・

「新収益基準」の適用によって、具体的にどのような変更が生じるかは企業ごとに異なるので、詳細は各社の説明を熟読するよりほかはない。

ただ、影響が大きそうな変更点をざっくり挙げると、次の4点があるようだ。(日経電子版2021.3.12付「売上高の計上時期、「モノ」と「サービス」で切り分け」を参照した)

  1. 販売奨励金やリベート・・・原則、原価や販管費に含めず、売上から差し引く
  2. 代理人取引・・・代理人による販売とみなせる取引は、手数料のみを計上
  3. 引き渡し・・・契約成立時点ではなく、引き渡した時点で計上
  4. ポイント・・・発行時は売上から差し引き、利用時に売上計上

毎期、多額の販売奨励金を払っている企業は少なくないと思われるが、ルール1の適用によって、売上が今期から減少するケースが生じることに今後注意を要する。

ルール2は、百貨店の消化仕入取引(商品を販売できた時点で、百貨店が仕入れたことにする取引)などに大きな影響を与える。

百貨店は消化仕入によって、商品の在庫リスクを回避しつつ売上を計上してきたが、今後は代理人として販売しているとみなされ、販売価格から仕入価格を差し引いた分しか売上に計上できなくなる。
実際に、三越伊勢丹ホールディングスは2022年3月期の売上高予想を前期比45%減の4,470億円としている。
コロナ禍の甚大な影響を受けた2021年3月期よりも少なくなってしまうのだ(旧基準に基づけば9,650億円で前期比18%増)。

ルール4も、家電量販店など積極的なポイント還元を武器として売上高を伸ばしてきた企業にとっては、大きな減収要因になる。

売上高に絡んだ財務指標も、大きく変化する可能性があることにも気を付けたい。
いきなり売上高利益率が上昇したことにビックリしないように、「新収益基準」の影響をあらかじめチェックしておくことが必要だろう。

契約だけでは売上にならない

ルール3についても影響は小さくない。

近年、メーカーやソフトウェア開発会社では、商品と保守メンテナンスなどのアフターサービスをセットで販売している事例が少なくない。
アフターサービス料込みで販売価格が決められている場合、これまでなら一括して売上計上することもできたが、「新収益基準」では商品とサービスを分けて売上計上することが求められる。
商品の引き渡しは完了しても、サービス部分は将来にわたって提供されるから、提供した時点で収益として認識すべきだからだ。

また、サービス提供の複数年契約をした場合でも、売上は履行状況によって分割計上を求められることになるだろう。

期末に駆け込みで契約だけ済ませ、売上高を膨らませるといったやり方も、当然通用しなくなる。

取引の実態に見合った売上計上がなされるという点では、ルール3の存在は投資先の選択にあたって役立つと思う。

Posted by Uranus