投資信託の信託報酬は安いほどよいのか?
株式投資においてはインデックス投資が年々そのウェイトを高めており、機関投資家も、個人投資家もインデックス・ファンドを購入することが普通になってきた。
米国のデータでは、ミューチュアル・ファンド(オープンエンド型投資信託のこと)市場全体の36%が、インデックス運用のETFやファンドで占められているそうだ(日興リサーチセンター調べ)。
筆者が投資を本格的に始めた2009年頃は、まだインデックス投資はごく限られた人がやっている地味な存在だった。
個人投資家には、インデックス投資について、「そんなまどろっこしいやり方してられるか」と否定的な発言をする人がたくさんいた。
それが、今や証券会社や運用会社が無視できない地位を確立し、商品政策を変えるまでに成長した。
個人投資家のブログなどをみても、ここ数年で投資を始めた40代以下の若い層を中心に、インデックス投資を行っている人が多い。
筆者自身も、投資金額が最大の銘柄は、米国バンガード社の「トータルワールドストックETF」だ。
ほかにもETFやインデックス・ファンドをいくつも保有している。
つまり、インデックス投資の有用性は筆者も十分に認めている。
ただ、アクティブ投資の魅力もまた捨てがたいものだと感じる。
そもそも、市場の参加者全員がインデックス投資になってしまったら、インデックス投資自体も成り立たなくなってしまうではないか。
多様な投資家がいて多様な考え方で投資をしているからこそ、市場は機能しているわけである。
アクティブ運用の投資信託がなくなってしまうと、市場の多様性は失われて、つまらないものになってしまうだろう。
だが、世の中には“インデックス投資原理主義者”のような人がいて、アクティブ・ファンドを頭ごなしにクズファンド呼ばわりする言動を結構目にする。
たいていの場合、信託報酬が高いことをその理由としている。
こういう人たちは、おそらく下げ相場の経験が乏しく、インデックス投資が必ず成功すると信じ込んでいるのだろう。
アクティブ・ファンドの信託報酬がインデックス・ファンドより高いことは間違いない。
しかし、それはファンドマネージャーが独自の視点で銘柄選びをするのだから、当たり前の話だ。
上がっても下がっても指数に連動させておけばよいインデックス・ファンドと違い、銘柄選びというサービスを受けるためのコストが上乗せされているのだ。
商品内容が違うのだから、値段が異なっていて何が悪いのだろう。
こういうと、「アクティブ・ファンドはインデックス・ファンドに勝てない」というデータを持ち出してきて、上乗せするコストは無駄だと反論する人が出てくるだろう。
確かに、アクティブ・ファンドはインデックス・ファンドに平均的には勝てない、というのは事実だろう。
ただし、あくまで「平均的に」ということであって、すべてのアクティブ・ファンドがインデックス・ファンドを上回れないということではない。
事実、国内の中小型株を投資対象とする投資信託の中には、日経平均やTOPIXを大きく上回る成果を長期的に残しているファンドも少なくない。
私のお気に入りで、長年保有している三井住友DSアセットマネジメント「中小型株ファンド」も、その一つだ。
運用開始は2003年9月だから、もう16年以上運用されている老舗ファンドである。
ファンドマネージャーを務める木村忠央氏は、マネー雑誌などでたびたびお見かけするが、運用哲学が一貫していて、そのお話は個人投資家にも学ぶべき点が多い。
例えば、この記事なんかは含蓄が深い。
四季報マニアが語る「有望銘柄は“この4文字”で探せ」
「中小型株ファンド」のここ5年のトータルリターンは年率17%ちょっと。
同期間のTOPIX連動インデックス・ファンドは年率6.0~6.7%なので、2倍以上の水準である。
ちなみに期間を10年間に伸ばしても、同様の格差がある。
信託報酬は1.65%(消費税込)だから安くないが、この結果なら私は十分満足できる。
もちろん、時期を区切ればパフォーマンスがTOPIXに劣後することも何度かあった。
短期的には銘柄選択がうまくいかないことがあるのは当然の話で、百戦百勝などありえない。
重要なのはあくまで長期でいい成績を残してくれることであり、そのことを検証するために、半年ごとに保有ファンドとTOPIX連動ファンドのリターン比較をすることは、私にとって大事なイベントである。
筆者が言いたいのは、運用実績をみないで信託報酬を云々することなどナンセンス、ということだ。
高い信託報酬を取るなら、結果を残さなければならないことはもちろんだ。
要は、費用と成果のバランスの問題である。
結果が残せているなら、あとは上乗せする費用を高いと感じるか、安いと感じるかという購入者側の価値観の問題に過ぎない。
どんなに美味しい料理でも、高い価格は受け入れない人もいるし、逆に金に糸目をつけない人もいる。
そういうことを無視して信託報酬だけで否定的な評価を下す人は、かつてインデックス投資を大した理由もなく否定していた人間と同類だと言わざるを得ないだろう。