有報のリスク記載に今後注目

投資のヒント

9月25日の日本経済新聞朝刊に、「サイバー攻撃「脅威」5割に上昇 海外企業には認識見劣り 東証1部1300社 有報のリスク開示調査」という記事が掲載されていた。
3月期決算企業について、有価証券報告書の「事業等のリスク」記載内容について調べてみたところ、94%が2019/3期よりリスクに関する記載を増やしていたという。
背景には、政府が「事業等のリスク」に関して、2020/3期の有報より具体的に事象や対策を記述するように求めたことがあるようだ。

今年は、新型コロナウイルスの問題がクローズアップされたため、パンデミックに関して言及する企業が31%から93%に急伸した。

記事では、業界によってリスク認識には濃淡があったことも触れている。
建設業界では、2019/3期にパンデミックについて記載があった企業は12%しかなかったが、現実にはコロナ禍で工事の中断など想定外の事態に追い込まれたケースが少なくなかった。

これは建設業界に限った話ではない。
例えば、飲食業の串カツ田中では、直営店全部及びフランチャイズ店の一部が4月に休業を余儀なくされ、結果として2020/11期上半期(2020/5期)は1億円強の営業赤字に転落した。
しかし、串カツ田中の2019/11期有報の「事業等のリスク」には16項目のリスクが記述されていながら、パンデミックに関する記述は一切なかった。
リスクとして認識しながらも蓋然性が低いと軽視して記述しなかったのか、あるいはリスクとして認識すらしていなかったのか?
いずれにせよ、対策が事前に想定されていなかったことは明らかだ。
同社の最新の2020/5期有報には、「事業等のリスク」として感染症の拡大に関する記述を追加する旨が明記された。

同じくコロナ禍で大きな打撃を受けた貸会議室大手ティーケーピーも、2019/2期有報にはパンデミック関連の記載はなく、「特定事業・特定地域への依存」という項目の中に「大規模な地震や災害等の発生によって貸会議室の運営に重大な支障をきたした場合にも、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性」がある、と記述されているだけだった。
こちらも、感染症の流行でビジネス活動が停滞し、貸会議室の需要が激減するなどという事態は、まったく想定していなかったのだろう。
同社の2020/2期有報では、一転して「事業等のリスク」の先頭に「感染症の流行、自然災害、不景気等に伴う需要の減少」という項目を掲げ、リスク内容と主要な取り組みを記述している。

個別株投資を手掛ける個人投資家の立場からいえば、今後、有報のリスク記載に注目することは重要性が高まるように思う。
それは、2つのメリットがあるからだ。

まず、投資先企業にどのような事業リスクの要因があるのかを知ることができる。
個人投資家が投資先企業の事業に精通していない場合、株価が崩れるきっかけとなる事象をうまくイメージできないおそれがある。
そもそも、そのような企業には軽々に投資すべきではないともいえるが、実際のところ、あまり詳しくない業界の企業でも株を買いたいというケースは少なくない。
今後は、各社とも事業リスクに関する記述をさらに充実させていくとみられるので、それを熟読することで、事業リスクをある程度イメージしやすくなると期待できそうだ。

もう一つは、投資先企業が何を蓋然性の高い事業リスクとして想定しているのかを知る重要な手がかりとなりそうなことだ。
リスクは数え上げればきりがないものであり、全てを記載することは難しい。
また、ただ単にぞろぞろ列挙しても、何が重大なリスクなのかかえって見えにくくなってしまう。
色々あるリスクの中で、その企業の経営陣が何を重大なリスクとして認識しているのか、そしてどのような具体的対策をとっているのかを知ることが投資家にとって重要だ。
何らかの問題が顕在化したとき、それが経営者の想定内にあったことなのかどうかをある程度見極めることができるからだ。
また、この点に詳細な説明がある企業は、経営者が誠実だと評価できるし、記述内容が空疎な企業の経営者は信頼に値しないという判断もできる。

これまでは「事業等のリスク」を軽く流し読みしていただけだったが、今後は熟読していきたいと感じた記事だった。