ウィズコロナで再考を要するディフェンシブ銘柄
コロナ禍は、株式銘柄のもつ特性にも大きな変化を与えている。
その顕著な例が、ディフェンシブ銘柄の変貌だ。
「ディフェンシブ銘柄」(あるいは「ディフェンシブ株」)とは、景気の変動に対して業績が比較的安定している業種に属する株式銘柄を指す。
景気敏感銘柄(景気敏感株)と対をなす用語であることは、個人投資家ならたいていご存知だろう。
社会インフラ(電力・ガス、鉄道、通信など)、生活必需品(食料品、トイレタリー商品など)、医療(医薬品、医療器具など)、教育(学習塾など)が代表的なものである。
事業が景気の変動の影響を受けにくいので、株価の変動も緩やかになる傾向が強い。
そのため、不況期や市場が荒れている場合、いわゆるリスクオフのときには、リスク回避のためディフェンシブ銘柄が選好されることが多かった。
ところが、今回はディフェンシブ銘柄の中で明暗がはっきりと出てきた。
新型コロナの感染拡大防止のため不要不急の外出自粛が広まると、従来はディフェンシブであったはずの業種にも、大きな影響が及んできたからだ。
あっという間に鉄道株が不況業種に
暗となった典型は、鉄道会社である。
テレワークやオンライン会議の急速な普及によって通勤客や出張客は少なくなり、観光客も激減した。
昨年まで活況を呈していた海外からのインバウンド客も、ほぼ消滅する事態となってしまった。
筆者は、4月にどうしても必要があって東海道新幹線に乗る機会があったのだが、そのときは指定席1車両にほんの数人しか乗っていなかった。
夕方だというのに人影もまばらな新大阪駅の光景は衝撃的で、いまだに鮮明に覚えている。
鉄道会社は、本業以外にもホテル、商業施設、レジャー施設などを運営して収益を上げているが、こちらも需要がなくなってしまい、大変な状況になっている。
日経新聞電子版によれば、鉄道大手18社の2020年4~6月期の連結決算では最終損益が全社赤字だった。
売上高では、東海道新幹線を運行するJR東海の前年比73%減を筆頭に、軒並み20%以上の減収となっている。
鉄道事業やホテル事業などはコスト面で固定費の比率が高い事業なので、売上が減っても費用は減りにくい構造をしている。
これだけ売上高が減少してしまえば、どうやっても赤字は避けられないだろう。
問題は、現在に至ってもコロナが収束する兆しは見えず、需要の早期回復のシナリオが描きにくくなっていることだ。
いや、そもそも需要が元に戻るのかさえも疑わしいと考える人も少なくないのではないか。
一度、テレワークやオンライン会議が定着すれば、つらい思いをして毎日通勤したり、1時間程度の打ち合わせのために長い時間をかけて移動したりするのはバカバカしいと感じても不思議ではない。
今後は都心のオフィス需要が減るのではないか、という観測も強まりつつある。
観光需要のほうも当面は近場に限定されるだろうし、インバウンドに至っては再開される時期すら予測はつかない。
鉄道会社の業績が好転するためには、少なくともコロナ感染の収束が見えてくることが必須条件だと思われる。
鉄道会社株は株主優待が充実しているため、株価が下がれば優待目当ての投資が見込め、株価が大きく値崩れするような事態はあまり考えられない。
が、どうみても、鉄道会社株をディフェンシブ銘柄として積極的に買うのは躊躇われる状況だ。
塾生集めに苦戦する学習塾
もう一つ、コロナ禍の影響を大きく受けたディフェンシブ銘柄の例として、学習塾を取り上げてみよう。
景気の好不況に関わらず、子弟の教育には惜しまずお金をかけるという親は多いはずだ。
評判の良い塾には遠方からも学生が集まるし、受験が近いとなれば、複数の塾を掛け持ちする受験生もいるだろう。
授業料は現金や振り込みで毎月受け取るのが主流なので、資金繰りも楽である。
だから、学習塾は塾生集めがうまくいっていれば経営が比較的安定している業種であり、キャッシュリッチな会社も珍しくない。
ところが、学習塾では講師と学生が対面で授業するのが基本だから、コロナ禍でステイホームが言われるようになってすぐに大きな影響を受けた。
3月に学校が休校になったのと相前後して、ほとんどの学習塾も休校・休塾になってしまった。
授業を開催できなくなってしまえば、授業料を請求することはできない。
講師の人件費や教室の賃借料などのコストの負担は続くが、売上が立たない状況になってしまったのだ。
もちろん大胆にコスト削減に取り組むことはできるが、やりすぎれば、今度は授業再開に支障をきたすことになりかねない。
さらに学習塾業界にとって不運だったのは、緊急事態宣言の時期と新学期が重なってしまったことだった。
例年、新学期が始まる4月から5月にかけては新しい塾生募集の最盛期にあたり、この時期にどれだけの塾生を集めることができるかが、学習塾の年間業績をほぼ決めるといっても過言ではない。
それが、募集活動をほとんど行うことができなかったために、売上高を十分に伸ばすことができないでいる。
2020年4~6月期(一部3~5月期)は学習塾大手7社全社が大幅減収で赤字であった、と日経新聞電子版は報じている。
緊急事態宣言解除後には、各社とも教室を順次再開しているので、売上高は徐々に増えていくことになろう。
ただ、塾生募集が十分できなかったことの後遺症は大きく、通期業績予想を前年比大幅減としている会社が多い。
来年以降は、また元の状態に戻るのだろうか?
なかなか予測は難しい。
コロナ感染が収束していれば元に戻る可能性は高いが、今のような状況が続くようだと、コロナ対策に大きなコストをかける必要があるかもしれない。
通塾によるコロナ感染に対する保護者の不安は強い。
万一にも教室内でクラスターが発生するようなことがあれば、信頼を一気に失って塾生が流出してしまうリスクがある。
ネットを通じた遠隔授業の導入などIT活用の優劣によって、業界内の格差が拡大することも想定される。
投資家としても、個別企業の選別眼がいっそう求められるようになるかもしれない。
これからのディフェンシブ銘柄は業種よりもビジネスモデルで選ぶ?
5Gの本格化によってますます需要が高まる通信などの業種を除けば、業種だけでディフェンシブ銘柄かどうかを判断するのは難しいケースが少なくない。
今後は、個別企業の事業内容や業績状況をしっかりと分析して、ディフェンシブ性のある銘柄を掘り起こすことが求められる時代になっていくように思う。
例えば、医薬品メーカーは昔からディフェンシブ銘柄の代表格だったが、近年は新薬開発の状況によって業績が大きく変動するケースが増えており、株価も乱高下することがある。
ディフェンシブ銘柄というより、むしろギャンブルに近いような感覚で投資する投資家も結構いる。
食品メーカーに関しても、自宅での巣ごもり需要で業績好調なメーカーがある一方で、飲食店が軒並み苦境に立たされている現在、ビール会社のように業務用需要が大きく減少して業績が振るわないケースがみられる。
ディフェンシブ銘柄の王者として必ず名前が挙がる花王さえも、衛生関連製品は好調ながら化粧品事業の不振が響き、今期は減益予想に下方修正した。
結局、誰を顧客としてどのような商売をしているか、そしてコロナの影響をどのように受けるのか、を見極めることが大事ということだろう。
最後に、私の保有銘柄の中で、これはディフェンシブ銘柄として有望だなと考えるものを一つ挙げる。
セコム株式会社だ。
言わずとしれた警備業のトップ企業だが、防災、医療、保険、住宅など多方面に事業展開している。
セコムは、暮らしに安心・安全を提供する社会インフラ「あんしんプラットフォーム」を構築することを長期ビジョンとして掲げている。
この安心・安全はどんな時代にも求められる普遍的な価値であり、景気変動にも強い事業を営んでいるように思う。
今回のコロナショックの局面でも、3月に株価はいったん崩れながら、すぐに盛り返して上昇を続け、8月14日には年初来高値を更新した。
会社が示した2021年3月期通期予想では経常利益が前期比14.1%減となるが、来期以降の回復は十分期待できる。
強固な財務基盤を持ち、配当も年々増額しているので、長期保有していくつもりだ。