続・なぜ、コメダ珈琲店は高収益なのか?
前回の投稿で、カフェチェーン「コメダ珈琲店」を運営する株式会社コメダホールディングス(コメダHD)が、飲食チェーン店の中でずば抜けた高収益企業であることを紹介した。
その要因についてメディアの記事では、コメダはフランチャイズ方式のビジネスになっているため、と説明されることが多い。
しかし、他のフランチャイズ店中心の飲食チェーンと比較しても高収益ぶりは際立っており、コメダ独自の要因がありそうだと述べた。
売上の7割は食材等の卸売、実質は工場直売に近い
まずは、そもそもコメダHDはどのようにして収益をあげているのかをみていこう。
「そんなの、フランチャイズビジネスなんだから、加盟店の支払うロイヤリティ(手数料)がメインだろ!」と考える方も多いと思うが、有価証券報告書をみると売上収益にロイヤリティ収入の占める割合は驚くほど低い。
コメダHDの収益源は、大きく分けて5つある。
①フランチャイズ加盟店への食材等の卸売
②直営店の売上
③店舗開発に伴う収入(新規FC店に関する工事請負契約など)
④リース収益(店舗用建物・設備の賃貸など)
⑤その他(ロイヤリティ収入、コンサルティング収入など)
フランチャイズビジネスなら当然出てくるロイヤリティ収入が、実は「その他」の中に含まれている。
その割合は10%に満たない。
売上収益の7割は、フランチャイズ店に食材等を販売した売上である。
コメダでは、店舗で使う主要食材であるコーヒー(豆から焙煎・抽出したもの)、パン、餡などは自社工場で生産し、それをFC加盟店に販売している。
だから、卸売といっても単なる問屋ではなく、メーカーが小売店に直売する形に近い。
一方、ロイヤリティは店舗の席数比例で毎月一定額を徴収するのみで、一般的なフランチャイズ・チェーンでみられるような、売上や利益に料率を掛けて算出する連動形式ではない。
加盟店が売上を伸ばせば食材等の仕入れが増え、自然とコメダHDも売上・利益が伸びるが、加盟店も潤うということになる。
コメダのように、加盟店のロイヤリティ負担を少し軽くして、食材等の卸売でも稼ぐというビジネスモデルは、外食系のFCでは結構みられ、壱番屋やモスフードサービスもそれに近い。
ただ、売上や利益に連動するロイヤリティがFC契約上存在しないのは、3社のうちコメダHDだけだ。
重いロイヤリティ負担に苦しむことは少ないので、加盟店にとっては優しい仕組みになっているようにも見える。
もっとも、店舗の建設費や内装にかかる経費は加盟店が最終的に全部負担するのが原則なので、初期投資額は他のFCに比べると大きいようだ。
だいたい1億円程度は準備する必要がある、とのネット情報があった。
個人ではなかなか敷居が高いかもしれない。
フランチャイズ方式を徹底しながら全国展開を実現
売上の内訳を他の外食FCと比較すると、コメダHDは直営店売上の比率が極めて低いことが際立つ。
もともと店舗数において直営店の比率が低いのだから当然ともいえるが、それにしても半分以下の水準である。
直営店売上高の比率が低いということは、フランチャイズ店中心で運営が回せているということを意味する。
コメダ珈琲店の店舗数が全国でどんどん増えている中でこれをやれるということは、初期投資負担を負って新規出店を担う加盟者を確保できているということだ。
だから、他社ほど直営店に依存する必要がなく、直営店の営業に必要な販管費も軽くなる。
つまり、コメダHDが自身の役割をFC展開と食材供給に限定し、店舗のオペレーションはFC加盟者に委ねる仕組みを徹底できることが、高収益を生み出しているといえるのではないか?
凄いのは、全国に店舗展開しながら、それを実現していることだ。
店舗の総数はコロナ禍に関係なく増え続けている。
ところが、増加は東日本・西日本で起こっていて、お膝元の中京地区では逆にじりじりと減少し、2023/2期にはとうとう逆転が起こった。
喫茶店は難しいビジネスだ、と言われることがある。
それは、客席の回転率が低いにも関わらず、客単価が低く、そのくせ店舗の立地や、内装・什器などには結構こだわる必要があるからだ。
にもかかわらず、全国でコメダ珈琲店のFC加盟希望者がいるのは、結局、コメダ珈琲店が成功する見込みが高いビジネスとみられているからにほかならない。
いったい、コメダは他の喫茶店・カフェと何が違うのだろう?
4Pでみるコメダの経営戦略
コメダグループの経営理念は、「私たちは"珈琲を大切にする心から"を通してお客様に"くつろぐ、いちばんいいところ"を提供します」である。
地域の「くつろぎ」の場になることこそ、コメダ珈琲店が最も大切にしているコンセプトだ。
フルサービス型の喫茶店であることを変えないのも、それゆえに違いない。
これを具体的にどう戦略に落とし込んでいるのだろうか?
経営学でよく用いられるマーケティングの4P(Product、Place、Price、Promotion)に従い、整理してみよう。
まず、Product=商品。
言うまでもなくコーヒーがメイン商品だが、各店舗で個別に淹れるのではなく、自社工場で製造したものを各店舗に配送している。
淹れるたびに味が変わることを避け、どの店でも、どんな時間でも均一な味になるように、万人が好む味のコーヒーを工場で調整して提供しているのである。
そして、食事メニューがスターバックスやドトールに比べ充実している。
中でも、デニッシュパンの上にソフトクリームとチェリーがトッピングされたコメダ名物「シロノワール」は知名度が高い。
トースト類やハンバーガーはどれもボリュームたっぷりで、食べごたえがある。
朝の時間帯なら、コーヒーを頼むと、トーストとゆで卵(卵ペースト、小倉あんも選択可)が無料で付いていくるサービスも有名だ。
パンは先述したように自社工場製である。
一方、街の喫茶店によくあるカレーライス、ハンバーグ定食などのご飯物はメニューにない。
飲食店との競合や、現場のオペレーションの複雑化を避けるためだという。
次に、Place=場所。
カフェチェーンの多くは、都心のビジネス街、駅周辺、繁華街など人通りの多い場所に立地する店舗が主体だが、コメダは郊外や住宅地に立地する店舗が中心となっている。
客層も、ビジネスマンや学生などの利用が多い他チェーンに対し、コメダは地域住民のリピート客が主体で、ファミリーやシニア層の比率が他社より高いという。
郊外の店舗はログハウス調の外観をもつ一戸建てが多く、内装にはふんだんに木材が使われ、客席は間仕切りがある上に個々にゆったりとしたスペースが確保されているので、長時間滞在しやすい落ち着いた雰囲気が醸し出されている。
ビルにテナントで入っている店舗を除き、広い駐車場が確保されている点も特徴として挙げられる。
次に、Price=価格。
コーヒー1杯は最低でも400円以上で、コンビニのセルフコーヒーの4倍程度するのだから、安くはない。
ただ、くつろぎの場として長時間過ごす場所代と考えると、それほど高価格というわけではないともいえる。
また、食事メニューを同時に注文する客も多いので、他チェーンを上回る客単価を実現しやすい。
最後に、Promotion=宣伝、企画。
地域住民のリピート客主体という客層からして、派手な広告宣伝は必要ない。
実際、コメダHDの決算書には広告宣伝費は費目として明確には出てこないので、おそらく少額なのだろう。
もっとも、コラボ企画や期間限定メニューなどはよく行われている。
SNSでの発信を巧みに活用している、との評価もある。
話題づくりは結構上手な会社だと感じる。
差別化を徹底した合理的な経営戦略が成功を生んだ
こうして4Pを整理してみると、他のカフェチェーンとの差別化が明確になされ、合理的で首尾一貫した経営戦略をとっていることに気づく。
長時間滞在型で客席回転率は低くなるが、食事メニューによって客単価は高めに誘導できる。
地価や賃料が低い郊外や住宅地への立地によって、出店コストは低く抑えることができ、競合相手も少ない。
そして、店舗の運営はフランチャイズ加盟者に委ね、加盟者が利益を上げやすい契約形態を採用する。
メニューは自社工場製のコーヒー、パンを軸とした定番が主体であり、現場では効率的なオペレーションが可能だ。
そして、周辺住民のリピート客を主体とする客層で、安定した売上を見込みやすい。
経営学の教科書で取り上げたい、お手本のような見事な戦略である。
すべてが有機的につながっているため、一部を模倣しただけではコメダを超えることは難しい。
しかし、全部を模倣するにはとてつもなく費用や時間が掛かるだろう。
この戦略の原型を生み出した創業者加藤太郎氏は、本当に凄い経営者だと思う。
コメダの成功によって、他のカフェチェーンでもコメダに類似した長時間滞在型店舗を展開する例がみられるようになった。
ドトール・日レスグループの「星乃珈琲店」はその代表格で、実績もそこそこ上がっているようだ。
とはいえ、店舗の立地場所は都心部中心で客層はまったく異なるので、コメダの戦略とは大きく異なる。
コメダの有力な競合相手は未だ現れていないので、当分は成長が続きそうだ。