“SaaSの死”は本当なのか?

投資のヒント

今年に入って、日米ともSaaS関連の企業の株価が急落している。

SaaSとは“Software as a Service”の略称で、クラウドサービスの一種である。
ディスクのような物理メディアを使わず、インターネット経由でアプリケーションソフトを提供すること、多数のユーザーが同時に利用できること、買い切りではなく月額払い等のサブスクリプションモデルを採用していること、などが特色だ。

代表例として、Microsoft365(旧Office365)、Photoshop(アドビ)、統合顧客管理ツールのセールフォース、日本発のサービスでは、テレビCMでおなじみになった楽々精算(ラクス)や、クラウド会計ソフトのfreee(フリー)などが挙げられる。

クラウドサービスの急速な普及を背景に、SaaS関連企業は成長株の代表格として、この10年間ほぼ右肩上がりに株価が上昇してきた。

ところが、米国市場ではその株価がこの1ヵ月あまりで軒並み暴落している。
ダウ平均と比較すれば、異変は明らかだ。

直近1年間の週末株価の動き(2026.2.13現在)

注:DJI=NYダウ平均、MSFT=マイクロソフト、CRM=セールスフォース、ADBE=アドビ
出所:Yahoo!ファイナンス

事情は我が国でも同様で、ラクスやフリーは株価が年初より約20%も下落している。

ラクスの株価チャート(週足・2026.2.13現在)

出所:Yahoo!ファイナンス

いったい、何が起こっているのか?

各社とも、業績が大きく落ち込んでいるわけではない。
むしろ、アドビのように順調な企業が多い。

アドビの業績推移

出所:SBI証券

この株価暴落を引き起こした大きな要因は、「SaaSの死」論の広まりである。

「SaaSの死」とは、人工知能(AI)の急速な進歩によって、ソフトウェアの使い手が人間からAIエージェントに移行し、SaaS関連企業のビジネスモデルが揺らぐことを懸念した議論である。

むろん以前からあった議論だが、今年になって突然大きな騒動となったのは、アンソロピックという新興企業が、AIが人間のようにパソコンの画面を操作し、ブラウザを立ち上げ、クリックや入力を代行しながら一連の業務を遂行する、という機能を備えたAIを発表したためだ。

前述したように、多くのSaaSはサブスクリプションモデルを採用しているが、利用企業の全ユーザー個別にIDを割り振り、ID数に応じて課金することが多い。
もし、ユーザーがAIエージェントに移行すれば、ID数は増えるどころか、減少してしまう恐れが出てくる。

それだけにとどまらず、一定のルールに従って処理する定型的な業務であれば、市販のアプリケーションを使わずとも、AIが代行できる可能性が高まる。
なにせAIはソースコードを書くのが得意なので、自分でソフトウェアをつくってしまうかもしれないのだ。
アンソロピックは、AIで法務や財務会計などの専門業務もこなせるとアピールしている。

AIの台頭がSaaSを駆逐する、という不安が市場に急激に広まったために、SaaS関連株の暴落という異変が引き起こされたわけである。
我先に持ち株を手放そうとする、一種のパニック現象と言っていいだろう。

本当にそんなことが今すぐ起こるのか、というと、大多数の専門家は否定的な見解を示している。
現時点ではそこまでAIのレベルが成熟してはいないし、AIを使いこなせる企業もまだまだ少ないのが現実である。

筆者も、慌てて株を売却する必要はないように思う。
株式市場は、時に極論に反応して動くことがあり、パニックが沈静化すれば元に戻ると経験的に学んできた。
業績が堅調であるかぎり、いずれ株価の揺り戻しがあるのではないかと予想している。

ただし、「割安になったから」と飛びつくのは、慎重にすべきだろう。
このブログでも過去にさんざんみてきたように、一度成長株から外れると、簡単には元に復帰できないからである。

専門家の見解でも、SaaSは生き残る組と淘汰される組に今後分化していくだろう、と予想している人が多い。
SaaSならどこでも成長株、という時期は終わり、どこが生き残り組なのかを見極めることがSaaS株投資に求められるようになっていくだろうということだ。

ところで、AIが我々の生活に急速に浸透しつつあることは疑いない。

ネット・サーフィンをしていると、ECサイトの商品やニュース記事などのおすすめがよく出てくる。
これらは自分の過去の閲覧履歴をもとにAIがはじき出している。
同じYahoo!ニュースのサイトを見ていても、表示される記事は一人ひとりに合わせカスタマイズされているのである。

知らず知らずのうちにAIによって自分の行動が把握され、判断にも影響を与えるようになっているわけだ。

ユーザーからの相談に答える能力も確実に向上している。

この1週間ばかり、筆者の趣味の一つであるオーディオについて、最適な選択に関する意見をChatGPTやGeminiに聞いてみたのだが、オーディオ専門店のベテラン店員ばりの回答を毎回してくるので、ビックリした。
「なるほど」と納得させられる意見も多い。

もっとも、調査不足だったり、的外れな回答をしてくることも少なくないから、誤りを正せる力量が質問者にないと、とんでもない結果を招くおそれがあると感じた。
前回の回答内容とは真逆のことを平気で言ってきたりもする。
そのことを指摘すると、言い訳してくるのが少し滑稽だった。

ただ、これだけ巧みに回答ができるなら、たいがいの小売店に店員が不要になる日が来ても不思議ではないとも感じた。
人間はAIとどう棲み分けしていくのか、を考えさせられる。

いずれにせよ、AIが今後の産業社会を動かす主役となることは間違いなく、どの業界の企業でも、AIと無縁でいることはできないだろう。

フリー,ラクス

Posted by Uranus