しまむら復活を検証(前編)
国内アパレル業界の雄、株式会社しまむらは、消費者にとって身近な会社だろう。
普段着をしまむらで調達している読者も、多くいらっしゃるのではないだろうか?
筆者もその一人だ。
グループ売上高規模はユニクロのファーストリテイリングに次ぐ業界2位、国内店舗数は2,200を超えており、ユニクロを大きく上回っている。
そんなしまむらは、業績も好調だ。
2026/2期上半期を終わったところで、6期連続の増収増益、5期連続最高益達成が視野に入っている。
だが、コロナ禍前の数年間、しまむらが業績不振に苦しんでいたことをご存じだろうか?
コロナ禍前は苦境にあった
しまむらの業績推移のグラフをみると、2018/2期から2020/2期までの3期は減収減益だったことがわかる。

コロナ禍直前の2020/2期は、営業利益が2017/2期の半分以下にまで落ち込んでいた。
この3期間には、社長交代が2度もあった。
なぜ業績不振に陥ったのか?
2020年2月に社長に就任した鈴木誠氏(現会長)は、インタビューでこう答えている。
しかし業績低迷期に、利益率を上げるためにアイテム数を絞りました。1年に2割ずつ、2年連続で商品の点数を削減し、結果として店舗の面白さが失われてしまいました。
うちは大手SPA企業のように、自社で製造したベーシックな洋服を大量に売る商売とは違います。あくまで小売が主体であり、お店の楽しさが命。
そう考え、アイテム数を元に戻しました。
出所:日興フロッギー「上場企業の社長に聞く!しまむら・鈴木誠社長」2023.11.28&2023.12.4掲載
宝探しの魅力が薄れたことが低迷の原因?
しまむらの商売は、ユニクロとは大きく違う。
ユニクロはSPA業態で、ほとんどの商品を自社で企画し、直接に生産工場に発注して大量に調達し、自社店舗で売る。
商品は流行に左右されにくいベーシックなアイテムが中心だ。
一方、しまむらは、あくまでメーカーやアパレル卸から商品を仕入れる。
ただし、「売れ残ったら返品」が前提となる一般的なアパレル取引と違い、売れ残りリスクを自社で負う完全買取スタイルで、その代わりに安く仕入れている。
低価格、かつユニクロよりアイテム数は圧倒的に多く、商品が頻繁に入れ替わる。
売り切れ御免のため、品切れになれば入手が困難になることが少なくない。
こうした特徴が、宝探しにも似た感覚を消費者に与え、しまむらの店舗に頻繁に通う「しまラー」を生み出すことになった。
しまむらで好みの商品を探す「しまパト」という言葉もある。
2000年代後半から2010年代にかけて、著名人がしまラーであることをSNS等で発信したこともあって、ブームのような現象が起こり、業績を伸ばしてきた。
だが、低価格で一つ一つの商品の利幅は薄いうえに、アイテム数が多くて管理コストが余計にかかる。
その短所を改善しようと、アイテム数を絞ろうとしたのだ。
ところが、それが裏目に出た。
店頭の変化を単調にしてしまい、宝探しの面白さを奪ってしまった。
結果として消費者離れにつながった、というのが、先の鈴木氏の分析である。
さらに、業績を立て直そうと、低価格品を大量に揃えてセールを連発したが、それも不発に終わった。
消費者はもう安いだけの商品を求めてはいなかった。
経営と消費者ニーズの間にズレが生じていたのである。
商品力を高める改革
そこで鈴木社長(当時)は、アイテム数を戻すとともに、「リ・ボーン」を掲げて経営改革に着手した。
まず、商品力の強化である。
以前から販売量が伸びていた自社のプライベート・ブランド商品(PB)を強化した。吸汗や保温性など機能性をアピールしたベーシック商品はもちろん、素材の良さなどの付加価値をつけた高価格のプレミアム商品も登場させた。
また、特定のサプライヤーと組んでターゲット層向けに共同開発する商品(JB)にも注力している。
JB自体は以前からあったが、サプライヤーからの提案で仕入れただけであったため、単発的でブランドが長続きするものではなかった。
これを改め、年齢と服のテイストのマトリックス図をもとにしてコンセプトをまず社内で決めた上で、それに合った商品をサプライヤーと一緒に練り上げていく形にしたのである。
大人女性向けの「hareiro」、アウトドアテイストの「LOGOS DAYS」などがその一例だ。

出所:しまむら2022/2期決算説明会資料
3つ目として、コラボ商品を積極的に展開した。
ファッション系インフルエンサーと組んで企画した商品や、アニメやSNSで話題となったキャラクターをあしらった商品を、雑貨やインテリア用品を含めて提供している。
こうした取り組みによって、店頭で商品を探す楽しさが復活し、さらに新しい顧客を呼び込むことにも結びついているようだ。
また、売れ残りの値下げを削減して利益率を維持できるようになった。
オンラインストアが集客に貢献
新規顧客の開拓という点では、EC事業を本格的に開始したことも特筆すべき改革である。
アパレル業界でもECによる販売はもはや珍しくないが、意外なことに、しまむらがオンラインストアを立ち上げたのは2020年秋と他社に比べ遅かった。
「来店いただくのが最良」との考えが社内で強く、なかなか踏み切れなかったという。
それが、コロナ禍によって消費者のネット購入が活発になったことが後押しとなり、ゴーサインが出た。
EC事業の売上高が全体に占める割合はまだ2%程度にすぎないが、当初の予想を超えたペースで伸びている。

見逃せないのは、ネット購入者が商品受取のために来店し、“ついで買い”をしてもらえる副次的な効果が発生したことだ。
しまむらのオンラインストアで購入した人の店舗受取比率は、ずっと80%以上をキープしている。
来店した人は、受取だけでなく、買い物をして帰ることが多い。
オンラインストアの利用者は都市部に多いのだが、東京都内の店舗では実店舗とオンラインの相互送客が進んでいるという。
デジタル販促主体へ転換
広告戦略の転換も効果を上げている。
ずっと続けてきた新聞の折込ちらしによる販促から、デジタル販促主体へと舵を切ったのだ。
WEB広告や、TikTokなどの動画、SNSを活用した情報発信を積極的に取り入れた。
デジタルメディアの特性を活かし、状況に応じた機動的な発信を店や地域単位で行っている。
紙ちらしと違って色々なことを試しやすいので、漫然と広告を打つのではなく、広告宣伝費の費用対効果の最大化が意識されるようになっている。
こうした経営改革によって、しまむらは再び増収増益トレンドへと復帰した。
次回は、経営改革がデータにどう現れているか、深堀りしてみたい。










