しまむら復活を検証(後編)

業績

前回に引き続き、株式会社しまむらの復活劇について検証する。

2018/2期から3期連続減収減益に低迷していたしまむらが、2021/2期以降再び成長路線に復帰できたのは、
①商品力を高める改革
②EC事業(オンライン販売)との相乗効果
③折込チラシからデジタル販促主体へのシフト
などの施策が功を奏したことによる。

では、それらの改革の成果は、データ上はどのように現れているのだろうか?

客単価が上昇傾向

まずは、業績の根幹にある前期比客数及び客単価の推移をみてみよう。

減収減益にあった2018/2期~2020/2期では、客数が伸びても客単価が大きく下がったか、あるいは客単価は維持しても来店客数が大きく減少していた。

2021/2期はコロナ禍真っ只中ということもあり、客数は-6.3%と大幅に減少した一方、逆に客単価は5.5%も上がっている。
おそらく、時節柄何度も来れないことを意識して、来店した客が一度に大量に購入したのではないだろうか。

改革の成果が出始めた2022/2期以降では、客単価がずっと上がっていることが目を引く。
しかも、上昇率も高い。

商品力を高める改革によって、従来より高価格の商品が売れるようになったことの現れ、と解釈できるように思う。
JB(サプライヤーとの共同開発商品)やコラボ商品が消費者に受け入れられたのだろう。

利益率の向上

次に、コロナ禍以降の利益率の向上が特筆される。

売上高営業利益率は、減収減益の不振に苦しんでいた低迷期には、4%台まで落ち込んでいた。
改革が始まって利益率は徐々に回復し、直近の2025/2期はこの10年間で最も高い約9%にまで達している。

ユニクロの約18%(国内部門のみ)には及ばないとはいえ、SPA業態ではない小売業しまむらがこれだけの利益率を確保できているのは、立派だと言っていいだろう。

売上原価率、販管費率が両方とも低下、あるいは横ばい傾向にある点にも注目だ。

まず売上原価率が下がるということは、粗利益率(売上高総利益率)が上がっているということである。
客単価が上がったことからみて、より高価格で利幅が取れる商品が売れていることが背景にありそうだ。
また、売れ行きが順調で、特売などによる値下げ回数が減った、という要因も考えられる。

ご承知のとおり、近年の物価上昇や人件費、物流費、光熱費等のコスト高は、小売店を大いに苦しめている。
しまむらも例外ではなく、販管費の金額自体は増加している。

それでも販管費率がさほど上昇していないということは、販管費の伸びが売上高の伸びの範囲内に抑えられている、ということだ。

上図のとおり、人件費は2017/2期から2025/2期の間に40%近くも上昇した。

本来なら販管費率が上昇してもおかしくないのに、そうならなかったのは、広告宣伝費抑制に成功していることが大きい。
これこそ、広告戦略を転換してデジタル販促にシフトしたことの成果だろう。

賃借料が増えていないことについては、全体の店舗数が増えていないことによるものだろう。
業績低迷期には店舗数が増加していたが、2021/2期以降では既存店の改装が中心になっていて、新規出店を大幅に進めるという状況ではなかった。
店舗数が増えているのに売上が減収になっていた点を反省し、既存店テコ入れのため、いったん立ち止まったのかもしれない。

元々、しまむらはローコスト経営を強みとしていた会社だった。
それが業績低迷期を経たことで経営が磨き直され、再びその強みを取り戻したという印象を筆者は持っている。

残された課題その1~都心部攻略

業績が好調なしまむらだが、さらなる成長のためには克服しなければならない経営課題が2つある。

一つは長年懸案になっている都心部攻略だ。

前掲のグラフでもわかるように、しまむらの店舗の全国分布は地方に主軸がある。
2025/2期末でも、東京・大阪・愛知・神奈川の4都府県が全体に占める割合は15.6%程度にとどまっている。
人口比からみれば明らかに少ない。

しまむらの店舗戦略は、あえて出店コストの低い郊外や地方圏に集中立地する方針を長年採ってきた。
広い売場面積を確保でき、競合店が多い都心部よりも集客がしやすいためであったろう。
地方郊外店なら、得意のローコスト経営を最大限に生かせる。

しかし、2000年代に入ったあたりから地方圏での出店余地は次第に狭まり、それまでのように店舗数を大きく伸ばすことは難しくなってきた。
しかも、地方圏の人口減少や高齢化は、従来のマーケットを確実に縮小させることになる。

そこで、2011年頃から人口の集中する都心部への進出を開始した。
標準店の半分程度の店舗面積で、アイテム数を絞ったレディース特化の店舗を東京や名古屋に出店した。
しかし、採算が取れない店舗が続出し、当初想定の2ケタペースの出店ができず、一部は閉店するなど苦戦が続いた。

現在では、都心店でもカテゴリーや顧客属性は絞らずに、幅広い商品を取り扱う方針に転換している。
やはり、アイテム数が絞られると、しまむらの魅力が半減してしまうのだろう。

だが、そうなると都心部の出店余地も限られる。
そもそも広い面積を確保できる場所はなかなか見つからないし、あっても賃料がかさむ。

打開策として、独立店舗にこだわらず、スーパーが自前で運営していた衣料品売り場の跡地に出店することも検討中だという(日経電子版2024.12.24付「しまむら、都心部を再び攻略 顧客絞らず積極出店へ」)。

しまむらは、現在の「中期経営計画2027」で、グループで150店を新規出店するという目標を掲げている。
そのためには、都心部での出店は欠かせない。
どういう成果が出てくるのか、要注目だ。

残された課題その2~現預金を溜め込み過ぎ?使い道をどうするのか

もう一つの課題は、手元資金の使い道に関することである。

業績の回復によって、しまむらは1600億円強の現預金を現在保有している。
有価証券の保有金額も大きく、合わせると総資産の52.4%にも達する。

しかも純資産が厚く、無借金どころか、自己資本比率は90%以上と圧倒的な盤石さだ。

これだけ余裕があれば株主にもっと還元すべきではないか、という声が出てくるのも、当然ではある。

今年5月の株主総会では、マネックス証券系の投資ファンドから「配当性向を60%に引き上げ、160億円を上限とする自社株買い」の株主提案が提出された。
結果としては反対多数で否決されたが、積み上がった現預金の有効な使い道を示せないのであれば、株主還元圧力はさらに強まるだろう。
現時点では、しまむらの配当方針は、配当性向35%、DOE(自己資本配当率)3.0%程度を目安にすると公表されている。

ROA(総資産当期利益率)をみれば、しまむらは7%台、ユニクロのファーストリテイリングは11%台であるから、資産の収益性に格差があることは否めない。
手元資金の活用を早急に検討すべき時期が来ている。

店舗やECへの投資はもちろんだが、M&Aなどによる成長戦略も視野に入れていくことも必要かもしれない。

海外事業がユニクロに比べて大幅に遅れていることを考えれば、その強化も必要だろう。
しまむらは2012年から中国に出店し、一時期は12店舗まで伸ばしたものの、結局失敗して2020年に全面撤退している。
現在は、台湾子会社が44店舗を構え、88億円ほどの売上高がある。
とはいえ、まだそのプレゼンスはごく小さい。

しまむらは、研究してみると、なかなか面白くて学びのある会社だ。
成長戦略がしっかり見えてくれば、投資家からの評価ももっと上昇していくはずである。
現状のPER17倍でとどまるような企業ではないと思う。

しまむら

Posted by Uranus