株式会社丸井グループについては、当サイトの最初期である2019年10月に取り上げたことがある(実は百貨店ではない!? 丸井グループ)。
そのときに筆者は、丸井グループの実態を「ショッピングセンターを自ら運営するクレジットカード会社」と表現した。
“老舗百貨店に比べて若年層の来店が多い高感度な商業施設”というマルイの世間的なイメージとは裏腹に、全社利益の4分の3は、クレジットカードなどの「フィンテック」事業が稼ぎ出していたからだ。
業種としては小売業に分類されていても、どうみても立派なカード会社だった。
2019年頃は、丸井グループのビジネスが大きく変貌を遂げて、新しい形がはっきりと現れ始めた時期だったように思う。
あれから7年近くが経ったが、丸井グループは今どうなったのだろうか?
当記事では、その後の変化に焦点を絞って見ていきたいと思う。
前述記事と合わせてお読みいただければ幸いである。
B/SとP/Lの推移をみる
まずは、貸借対照表(B/S)から確認してみよう。
なんといっても、ビジネスモデルの特徴はB/Sに如実に現れる。

2019/3期と2026/3期を比べてみて、基本的な特徴はほぼ変わっていない。
どちらも、割賦販売金(ショッピングクレジット債権)と営業貸付金(カードキャッシング債権)が総資産の過半を占め、それに対応するように有利子負債が右側にある。
ただ、2026/3期は割賦販売金は大きく拡大したが、営業貸付金は半分近くに減っている。
理由は、カード利用者向け債権の一部について債権流動化を何度か実施していることにある。
要は、債権が増えすぎないように、外部投資家に営業貸付金の一部を売却し、資産を圧縮しているわけだ。
これによって、有利子負債を返済して減らすこともできる。
商業ビルなどの有形固定資産はやや金額が減っていることから、積極的に新規出店をするような投資はしていないようだ。
商品在庫はほとんどなく、自社での小売ビジネスは主役ではないことをうかがわせる。
純資産が少し減ったことも目を引く。
赤字を出して、利益剰余金が減ったのだろうか?
損益計算書に目を移して、2019/3期以降の業績推移をみる。
コロナ禍の影響が甚大だった2021/3期には大きく営業減益となったが、それでも赤字は出していない。
翌2022/3期から増益に転じ、それ以降はずっと増益が続いている。
営業利益率も2019/3期を上回る水準になり、業績は順調と評価できそうである。

P/Lをみるかぎり、純資産の減少は赤字によるものではなさそうである。
調べてみると、丸井グループは自社株買いを積極的に行っていた。
キャッシュフロー計算書には「自己株式の取得による支出」が毎期掲載されており、8期中3期は100億円を超える大規模な水準だった。
2022/3期のように、当期純利益を上回る規模で自社株買いを実施した期もある。
その自己株式を何度か消却したために、純資産額が減っているのである。
直近の2026/3期には、578億円もの自己株式の消却を実施した。
なぜ、こんなことをするのか?
おそらく、自己資本利益率(ROE)を引き上げるために、分母となる純資産額を減らしたいのだろう。
投資家を意識して、増配と合わせて株主還元を強化する方針が、こうした動きになっていると思われる。
変化その1~フィンテック事業はさらに比重が増大
2019/3期から2026/3期までの変化について、まず第一に挙げるべきは、フィンテック事業の比重が高まっていることである。
売上高ベースでは、フィンテック事業が2019/3期の約1.5倍にまで増える一方、小売事業は3分の2ほどに減少している。

営業利益ベースでは、フィンテック事業と小売事業の差はさらに拡大した。
その結果、全体にフィンテック事業が占める割合は、2019/3期75%から2026/3期80%にまで上昇した。

フィンテック事業の売上高の中核は、カード利用者が支払う分割・リボ手数料とカードキャッシング利息、及び加盟店が支払う手数料、の3つである。
注目は、ショッピングによるカード利用関連以外にも、新たな収益源を開拓しつつあることだ。
家賃保証や新規免許取得者向けローンなどのエンベデッド・ファイナンス(組込型金融)によるサービス収入が近年伸びている。
変化その2~小売事業の収益はテナント家賃がメイン、店舗の非物販化が進む
2019年の段階で、丸井グループは既に「ショッピングセンター(SC)・定借化」を基本方針として打ち出し、物販の場ではなく、体験やコミュニティを価値として提供する未来型店舗を創造する、としていた。
その取り組みは、この7年で大きく進展したと言っていいだろう。
小売事業の売上高構成を比較すると、まだ商品売上高が大きく、賃貸収入等は3分の1程度にとどまっていた2019/3期に対し、2026/3期には定借テナントからの家賃が5割強を占めるようになった。
残りもイベント、EC、関連事業であって、百貨店業界伝統の消化仕入取引(商品が販売された時点でその商品を仕入れた扱いとする取引形態)はわずかな割合しかない。
もう、マルイを百貨店とは呼べない。


さらに驚くべきことに、いまや店舗テナント面積の70%は非物販になっている。
丸井グループの店舗は、来店客に物を売る場ではなく、体験、食・サービス、イベントなどによって、カードの利用や新規入会を促進する顧客接点という位置づけなのである。
この顧客接点の存在こそ、丸井グループのユニークさであり、他のカード会社にはない大きな強みだ。

面白いことに、非物販傾向を強めるとともに、小売事業の利益も増加傾向にある。
コロナ禍中に15億円まで落ち込んでいたものの、その後じわじわ増加し、直近2026/3期は2019/3期とほぼ同じ112億円にまで回復した。
以前より少ない売上高で、同じ利益を上げられるようになったわけで、小売セグメントの体質改善にも成功したと評価できるだろう。
変化その3~「好きを応援するビジネス」を中核に据える
丸井グループは、2024年に新しい経営ビジョンを打ち出した。
それが、小売・フィンテック・共創投資の三位一体経営を発展させ、新たに「『好き』を応援するビジネス」を経営の中核に据えるというものだ。
機能と価格を重視する「コスパ経済」ではなく、一人ひとりの感情や価値観が原動力となって動く「非コスパ経済」、それを「『好き』が駆動する経済」と名付けて、経営の軸足を移すことを宣言した。
「『好き』を応援するビジネス」とは、その経済領域で展開するビジネスを意味する。

出所:経営ビジョン&戦略ストーリー2031
このようなビジョンに至ったのは、2020年頃から本格展開を始めた「『好き』を応援するカード」の成功だったと思われる。
元々、丸井が発行するクレジットカードには外部とのコラボカードがあったが、それがさまざまな分野に広がっていき、やがて新規入会やメインカード化を牽引するようになってきた。
2026/3期末には、カード会員全体830万人のうち、138万人(16.6%)が「『好き』を応援するカード」になっている。
新規入会に限れば、87万人中の38万人(43.7%)にものぼる。
若年層の会員獲得にも力を発揮している。
そこに、大きなビジネスチャンスを見い出したものだろう。
「『好き』を応援するカード」の例

出所:丸井グループ「MARUI IR DAY2026.6.9 事業戦略説明会資料」
「『好き』を応援するカード」が従来のカードと違うのは、一つ一つのカードの会員数は少なくてもよく、多様な企画によって幅広い利用者を獲得することを狙ったロングテール戦略として捉えられることである。
カード会員を他社と奪い合うレッドオーシャンを脱し、競合がない領域でカード利用者を増やし、愛着をもって使ってもらうことで優良顧客化していく戦略なのだ。

出所:丸井グループ「今後の方向性」(2024)
自前の店舗という顧客接点をもつ丸井グループの強みも、「『好き』を応援するビジネス」に大いに生かされる。
「好き」を応援するという目的で、店舗ではさまざまなイベントが実施され、マニア向けグッズが販売される。
それを目当てに来店した顧客を、接客を通じてカード新規入会につなげるチャンスが生まれる。

出所:丸井グループ「2026年3月期決算説明会資料」2026.5.15
他社が同様のコラボカードを発行したしても、ここまでは到底真似できない。
まさに、丸井グループ独自のビジネスモデルだ。
総括すると、丸井グループはこの7年間で「ショッピングセンターを自ら運営するクレジットカード会社」からさらに進化した、という印象を受ける。
小売とフィンテックの一体運営はより緊密化し、他のカード会社や小売チェーンとは異なる、唯一無二なビジネスを展開する存在になりつつある。
もちろん、課題はある。
・金利上昇による資金調達コスト上昇リスク
・丸井グループの店舗が無い地域では、同社のビジネスモデルは真価を発揮しにくい(特に海外)
・カード以外のキャッシュレス決済手段との競合リスク
・人口減少や高齢化による国内消費市場の縮小
これらは、すぐに丸井グループの経営に打撃を与えるものではないが、中長期の観点からは対応を検討していくことが求められるだろう。
「『好き』を応援するビジネス」が今後どのように展開していくのか、定期的にフォローしていきたいと思う。

