研修をコンテンツビジネスに~インソース

ビジネスモデル

4月は入社・入学の季節。
今まさに、新入社員研修が各地で盛んに行われていることだろう。

そこで今回は、法人向け研修サービス業界でグングン業績を伸ばしている株式会社インソースを取り上げてみたい。

インソースは2002年設立、2016年に株式上場、直近2025/9期末の連結従業員数は755人、売上高は145億円。
プライム市場上場企業としては歴史が割と浅く、規模的にも小さいほうだ。

だが、その成長は目覚ましく、この10年で業界の主要プレーヤーにまでなった。

その背景には、業界他社とは全く異なる発想に基づくユニークなビジネスモデルがある。

法人向け研修サービス業界の特性

新入社員研修をはじめ、企業内で行われる人材育成のためのOff-JT(職場外訓練)を自社内だけで完結させている企業は少ない。

人事部門が中心となってプランをつくったうえで、必要なカリキュラムを盛り込んだ研修を外部講師を招いて社内で実施してもらったり、社員を社外のセミナーに参加させたりすることが一般的だ。

そこで、人事部門をサポートして企業や団体の職員向けに研修・セミナーを提供するサービスが必要とされる。

この法人向け研修サービスは、日本能率協会のような老舗団体から、採用関連企業、経営教育機関、コンサルティング業界、シンクタンク、個人のコンサルタント・士業まで多種多様なプレーヤーがひしめいている業界である。
研修ニーズは企業規模、業種、職種の違いはもちろん、同じ業界でも各社ごとに異なるものなので、画一的なサービスでは到底対応できないからだろう。

2024年度の業界市場規模は5,858億円(矢野経済研究所推計)だが、最大手というべきリクルートマネジメントソリューションズや日本能率協会マネジメントセンターでも売上高は200億円前後であり、飛び抜けた存在がいない群雄割拠状態にある業界だといえる。

コロナ禍を乗り越えて成長が続くインソース

その環境下で、株式会社インソースは後発ながら高成長を遂げている。
まずは、P/L(損益計算書)の推移をみてみよう。

コロナ禍で研修ニーズが消し飛んだ2020/9期を除けば、一貫して増収増益を続けてきたことがわかる。
むしろ、コロナ禍を経たことで、成長に拍車が掛かったというべきだろう。

事業別でみると、上場時から主力事業である「講師派遣型研修」だけでなく、各地で開催する「公開講座」や、自社開発の人事サポートシステム(LMS)であるLeaf提供を主軸とした「ITサービス」も大きく伸びている。

特筆すべきは、増収増益に加えて、売上高営業利益率も飛躍的に高まっていることだ。
上場時には10%台だった営業利益率が、直近には40%を突破している。
販管費の増加以上に売上高が伸びていることがうかがえる。

2021/9期のV字回復は、コロナ禍によって一気にニーズが高まったオンライン研修の充実に素早く対応できたことが大きかった。

だが、新型コロナ沈静化に伴い研修のオンライン比率が下がってきても、インソースの成長は止まっていない。
これは、局所的な対応によるものではなく、インソースのビジネスモデルが強みを発揮しやすい環境が整ってきたから、と考えることが妥当だろう。

分業による迅速な研修コンテンツ開発力が強み

インソースのビジネスモデルの強みとは、研修サービス市場での新しいニーズに迅速に対応できる仕組みである。

典型的な事例が、2020年以降企業で導入が盛んになったDX(デジタル・トランスフォーメーション)に関する研修プログラムの充実だ。
インソースでは、2021/9期からDX関連の研修メニューを中心に開発を強化しており、これが講師派遣型研修・公開講座とも高い伸びで全体を牽引している。

今や一般人にも馴染み深い存在となったChatGPTについても、インソースがその使い方の研修講座を始めたのは、ChatGPTが本格的にサービスを開始したわずか5か月後の2023年4月だ。
その翌月には、自社LMSのLeafにChatGPTとの連携機能を搭載している。
その後の拡充によって、おそらく企業向けChatGPT関連研修メニューの充実ぶりでは業界他社の追随を許さないのではないだろうか。

なぜ、インソースは新しい研修ニーズに迅速に応えることができるのか?
その秘密が、インソース独自のビジネスモデル「研修の分業とコンテンツビジネス化」である。

従来の企業向け研修サービス会社のビジネスは、実態としては「研修講師派遣業」であった。
顧客の要望に合ったテーマで研修を提供できる講師を探して登録し、顧客の依頼で派遣し、売上を講師と分け合う流れが基本だ。
研修で使うテキストやスライドは講師自身が制作するのが一般的で、研修サービス会社が独自に用意することは稀である。

したがって、研修内容自体はあくまで講師の属人的なもので、要望の多いテーマに関連する人気講師を多く抱えることが、研修サービス会社の競争力となる。

一方、インソースでは、研修テキストなどのコンテンツ作成と、現場で実際に登壇する講師を分離している。
コンテンツ作成はインソース社内のコンテンツ開発クリエーターが担当する。
講師は現場での研修に専念し、コンテンツ作成にはタッチしない。
ここが業界他社とは根本的に異なるところだ。

過去に開発された全てのコンテンツは、自社エンジニアによって独自開発されたシステムでデータベース化されており、コンテンツ開発クリエーターは過去のストックを活用しながら、営業担当者が聞いてきた顧客の要望に沿って研修内容を毎度カスタマイズしていく。

ITの力で講師の登壇とテキスト作成の「分業制」を構築(人数は2024/9期末時点)

出所:インソース公式サイト

もちろん、顧客の要望が新しい分野に属するものであれば、新たにコンテンツを開発する。
コンテンツ開発に専念している担当者だから、講師が登壇の合間に自分で作成するよりも圧倒的に早く対応できる。
しかも成果は社内で共有されてストック化し、次に活用される。

“講師”に依存する属人的ビジネスではなく、“研修コンテンツ”を中心に据えて、組織的・システマチックにコンテンツを開発するコンテンツメーカーというポジションを確立したことが、インソースの新しさなのである。

増え続けるコンテンツと生産性向上

組織的な研修コンテンツ開発力によって生み出されるコンテンツは、累計1万種類以上と他社の追随を許さない数に達している。
時代のトレンドを読んで新規開発されるコンテンツに加え、講師派遣型研修では顧客ごとに合わせ柔軟にカスタマイズするし、既存コンテンツも講師や顧客の意見を取り入れてブラッシュアップしているから、どんどん新しいコンテンツが増えていくのだ。

生み出されたコンテンツは一回ぽっきりの使用で終わるわけではない。
同一コンテンツを講師派遣型研修、公開講座、eラーニング、動画販売とマルチチャンネルで活用する仕組みによって、多段的に収益化することができる。

営業利益率が上昇している要因のひとつに、コンテンツのストック活用が進んできたことが挙げられるのではないか。
なにせ、開発済みのコンテンツをアレンジして利用するわけだから、圧倒的に低コストで対応できる。

面白いのは、これだけコンテンツ数が増えていながら、その創出にかかる人員は意外に増えていないことだ。

顧客との接点を担う「営業」が一貫して増えているのとは対照的に、「コンテンツ開発」や「エンジニア」といった内部の生産部門の人員は、コロナ禍以降横ばいに近い。

結果として、従業員1人あたり売上高は大きく高まった。

営業以外の人員をあまり増やさず、生産性の向上によって売上高を伸ばすことに成功しているわけだ。
これも、営業利益率が大きく上昇した要因であろう。

今後のキャッシュの使い道に注目

最後に、インソースのB/S(貸借対照表)の特徴にも触れておこう。

無借金経営で、資産の半分が現預金というキャッシュリッチ企業の典型である。

一目瞭然な変化として、上場直後の2017/9期と比べて、現在は有形固定資産の規模が大きくなっている。
これは、顧客営業、公開講座の開催場所として使うセミナールーム、オンライン研修配信用のスタジオなどの機能を備えた拠点整備のため、東京・福岡・栃木などに土地・建物を取得したためである。

無形固定資産の借地権、投資その他の敷金及び保証金もそうした拠点整備に絡んだものと推測されるので、上場後は全国各地への拠点(25/9期末国内30か所)展開に積極的だったようだ。

ただ、これだけ現預金が積み上がると、その使い道について投資家から今後問われることが増えるだろう。

生成AI対応サービス、コンサルティング事業の強化を中期経営計画で打ち出しているので、そのための人材強化やM&Aなどに振り向けられることが予想される。

もちろん、株主還元も強化される可能性が高い。
中期経営計画では配当性向の目標が50%に引き上げられ、株主資本配当率(DOE)を18%としている。

状況次第では自社株買いやさらなる増配があるかもしれない。

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