競馬場の大家さんはIT企業だった~東京都競馬

ビジネスモデル

「東京都競馬」とはちょっと変わった社名だが、立派な東証プライム上場企業だ。
しかも上場したのは1955年だから、もう70年も前になる。

当社は東京都品川区の大井競馬場と群馬県の伊勢崎オートレース場の大家さんである。
また、東京都あきる野市にある総合レジャーランド「東京サマーランド」も所有している。

「ということは、それらの施設の不動産賃貸業だな」とお考えになる読者が多いだろう。
実際そうなのだが(東京サーマーランドは自グループで営業)、実は収益の柱は別のところにあるのが、この会社の面白いところだ。

中核事業は競馬とオートレース関連

東京都競馬株式会社は、戦災復興財源確保を目的に東京都が競馬事業を始める際に、競馬場施設の建設及び保守・整備拡充を目的として、東京都と民間が出資して1949年に設立された。
そのため、筆頭株主は今でも東京都である。

その後の事業多角化によって、オートレース場、馬券の場外発売所、遊園地、商業施設、倉庫など所有物件を増やしてきた。

現在の事業セグメントは4つに分けられている。
競馬とオートレースに関連する「公営競技」事業、東京サーマーランドに関連する「遊園地」事業、東京湾岸に保有する倉庫に関連する「倉庫賃貸」事業、商業施設等に関連する「サービス」事業である。

規模的には本業というべき「公営競技」が圧倒的に大きく、2025/12期連結売上高の71%、同営業利益の79%を占めている。

上図で注目すべき特色がある。
コロナ禍が始まった2020/12期に、「公営競技」の売上高・営業利益とも急伸していることだ。

「コロナなのに、競馬事業の業績が伸びた?」
筆者がこの会社を今回取り上げるのも、この点に着目したからだ。

不動産賃貸業らしいB/S、だがP/Lは・・・

その理由を探る前に、まず連結のB/SとP/Lを確認しておこう。

B/Sでは、不動産賃貸業らしく有形固定資産が大きな比重を占めることが特徴で、現預金も割と潤沢だ。
自己資本の比率が高くて有利子負債への依存度は低いので、健全な財務状態だと評価できそうだ。

2018/12期と2025/12期の比較による変化では、無形固定資産がやや増えたというくらいか。
短期有利子負債と長期有利子負債が逆転しているが、償還・返済予定が1年未満の長期有利子負債が短期に移行したからである。

P/Lの推移では、前述のとおり2020/12期以降の伸長が著しい。
明らかに、新型コロナは追い風となった様相だ。

直近2025/12期の売上高営業利益率は36.9%で、2018/12期の29.1%より8ポイント近く上昇した。
不動産賃貸業の営業利益率は10~20%が一般的と言われるので、当社は非常に高い利益率である。

競馬場など特殊な施設が賃貸物件に含まれるとはいえ、不動産賃貸業だけでこれほど儲かることには違和感がある。
どういうことなのか?

実はITシステムで稼いでいた!

そこで、中核事業である「公営競技」の売上高の内容を決算説明資料から調べてみよう。

資料:東京都競馬「2025年12月期決算説明資料」

本場賃料が大井競馬場の賃貸収入(借主は大井競馬の主催者である特別区競馬組合)、場外売場等賃料が場外馬券発売所の賃貸収入、SPAT4等賃料がSPAT4システムの賃貸収入、競馬付帯がSPAT4の運用・広報業務収入及び大井競馬場での飲食・物販収入、オート賃料が伊勢崎オートレース場の貸料収入(借主は伊勢崎市)である。

驚くべきことに、大井競馬場の賃貸収入は1%、伊勢崎オートレース場は2%でしかない。
実に85%がSPAT4というシステムの賃貸収入なのだ。

SPAT4とは、地方競馬の在宅投票システムである。
ネットで馬券が買えるシステムを当社が開発・保有し、地方競馬事業の運営者に貸し出しているのだ。
その賃貸料は、SPAT4による馬券の売上高の一定歩合で計算されるため、馬券が売れるほど、当社も収益が増える仕組みになっている。

つまり、収益の大部分はネットで馬券を買えるシステムを運用することで生み出されている。

これが、コロナ禍によって売上高が急伸した要因である。
外出ができなくなって、人々は在宅で楽しめる競馬レースに注目し、SPAT4を通じてお金を投じたのだった。
特に、それまで競馬への関心が薄かった層が、コロナを機に新たに参加してきたのが大きかった。

そして、コロナ禍が収束に向かっても、依然として競馬人気は衰えていない。
「ウマ娘」というゲームの大ヒットもあり、若者や女性にも本物の競馬に関心をもつ人が増えたことが大きいのだろう。
SPAT4の登録者数が100万人を突破した、という報道も2023年にあった。

SPAT4馬券売上高の推移

出所:東京都競馬「2025年12月期決算説明資料」

上図のとおり、2020年度以降の馬券売上高の伸びは凄まじい。

B/Sのところで無形固定資産が増えたことに触れたが、中身はソフトウェアである。
つまり、SPAT4への更新投資が増大したことにより、その簿価が拡大したということだろう。

連結P/Lで2023/12期に、売上高は増えながら営業減益となっていることに気づかれた方もいらっしゃるだろう。
これはSPAT4システム更新等による委託費および減価償却費の増加が主因である。

このように、東京都競馬は「競馬場の大家さん」という従来イメージとは裏腹に、実態はITシステムで稼ぐ会社に変貌していたのである。

安定しているけど、持続的成長には?

こうなると、この会社の将来は地方競馬人気に大きく左右されることになる。
今後も人気が持続するならば、地方競馬全体の馬券売上高シェアで半分近くを占めるSPAT4を抱える当社は、安定した業績を期待できる。
逆に、人気に陰りが出るなら、いずれ売上高は頭打ちとなり、業績が伸び悩むだろう。

どちらの見方を採るかで、評価は分かれることになる。

もちろん、当社もSPAT4に依存したままでいいとは考えていない。
だが、東京都が出資していて、公的な役割をもつ企業だけに、経済合理性だけで動くことはできないもどかしさがある。

赤字を長年続けていて、2022/12期にようやく黒字化できた「遊園地」事業は、その代表例といえる。
東京サーマーランドはプール中心の遊園地のため、夏場以外の集客力は弱いという欠点をずっと抱えてきた。
しかし、本業である公益競技事業とのシナジーはほとんど期待できないにもかかわらず、遊園地事業からの撤退や売却が真剣に検討されたことは、これまでほぼなかっただろう。
地域貢献的な視点や、東京都及び地元のあきる野市との関係があるから、たとえ十分な設備投資ができにくくても、簡単に“やめます”とは言えないのだ。

倉庫賃貸事業で安定収益を確保しつつ、遊園地事業はなんとか現状維持で、というのが当社の本音だろう。

大きな経営改革は行いにくいだけに、持続的な成長を望めるかどうかは疑問符がつく。
一方で、財務は健全、配当も安定、不景気でも公営ギャンブルには一定の需要がある、などを考慮すれば、ディフェンシブ銘柄としての魅力は高いといえそうだ。

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