「会員制ビジネス」というと、読者は何をイメージされるだろうか?
一般的な定義でいえば、個人情報を登録して会員になった顧客に対し、商品・サービスを継続的に提供することで収益を得るビジネスを指す。
SNSのように登録が無料の場合もあるが、有料の場合には、入会金・使用料・購読料・年会費など様々な名目で顧客が金銭を支払う。
支払いは購入や利用ごとに都度発生することもあるし、月単位あるいは年単位で一定金額を課金する契約形態もある。
後者はサブスクリプション形態、通称サブスクと呼ばれることは、ご存じの方も多いだろう。
対象分野は多彩で、代表的なものとして施設・店舗型(スポーツジム、カルチャースクール、レンタルスペースなど)、コミュニティ型(ファンクラブ、オンラインサロンなど)、情報コンテンツ提供型(ニュースサイト、動画配信、記事データベースなど)、商品提供型(健康食品、化粧品、食材など)、専門サービス提供型(語学指導、パーソナルトレーニング、料理教室など)などを挙げることができる。
リゾートトラストの会員制リゾートホテルとは?
今回取り上げるリゾートトラスト株式会社は、会員制によるリゾートホテル事業を主力事業としている。
創業は1973年で、翌年から会員制リゾートホテル事業を開始してこつこつと積み上げ、現在、会員数・施設数とも国内では圧倒的な規模を誇る。
リゾートトラストの会員制リゾートホテルは、会員とその家族、及び会員から紹介されたゲストが宿泊できる。
法人会員の場合には従業員が宿泊できることになるので、福利厚生の一環として利用している企業もある。
客室利用代金(ルームチャージ)は原則としてシーズンに関わりなく一定で、定員までなら何人泊まってもよい。
そのため、同ランクの他社ホテルに比べて、一人当りでみるとかなり格安に利用できることがある。
では、どうすれば会員になれるのか?
基本的には、各ホテルの客室個別の区分所有権を取得できる会員権を購入することが必要になる。
会員になる、すなわちホテルの一室のオーナーになるということなのだ。
リゾートトラストの主力ブランドである「エクシブ」を例にとると、特定ホテルの1室を14人(28人のプランもある)で共有し、タイムシェアリングする。
自己用に年間26泊(365日÷14人)が指定日として確保され、優先的に利用できるほか、利用予定のない枠を提供すれば、指定日以外、あるいは他の部屋やリゾートトラストグループ運営の他ホテルを利用(交換利用システム)することが可能である。
空きさえあれば、会員は全国にあるグループ傘下のホテルを利用できるのだ。
この「会員=ホテルの共有者」という仕組みが、他の会員制ビジネスではあまり見られないユニークな特徴である。
会員権といえばゴルフ場が思い浮かぶが、会員権を購入して会員になるという点ではリゾートトラストと類似しているものの、この会員権は施設の優先利用権であって、所有権とリンクすることはほとんどない。
売出し時に購入者が支払うお金は預託金という形になり、据置期間経過後や退会時には返還される契約になっていることが一般的である(ただし全額返還されるとはかぎらない)。
他社会員制リゾート施設でも、預託金であることが多く、所有権を取得するケースはあまり多くないようである。
典型的な富裕層向けビジネス
会員権の売出し価格は、ブランド、部屋のランク、付帯施設の内容、売出し時期などによって千差万別だが、1口1~2千万円程度が多いようだ。
会員権の販売総額は当該施設の建設事業費のおよそ2倍に設定される。
つまり、半分が売れれば事業費はおおむね回収できる。
さらに、施設管理のための年会費や固定資産税を購入後に毎年負担する必要があるので、会員は経済的に余裕がある富裕層が中心になる。
リゾートトラストの公表データによれば、約8割が経営者層、年齢層は50~70代が中心である。

出所:リゾートトラスト「事業の本質と成長戦略」2026.5
面白いのは会員権契約の8割が既存会員に由来するものだということである。
既存会員のグレード切替えや買い増し、既存会員からの新規顧客紹介が中心を占める。
顧客との強い信頼関係、満足度の高さがうかがえる。
会員権の販売でホテル建設に掛かった事業費を早期に回収しつつ、会員とその関係者の利用によって安定的な施設運営を確保する。
不動産分譲とホテル営業を掛け合わせたようなビジネスだが、それが可能なのは、富裕層との強固なネットワーク及び長年の実績で積み上げた信用力という、目に見えない資産があればこそだろう。
決算上の数値と業況がズレるって、どういうこと!?
リゾートトラストが投資家から広く注目を集めるようになったのは、コロナ禍でホテル業界が軒並み壊滅的な業績に陥った中で、同社だけが軽微な影響で済んだからだった。
では個人投資家の投資先として最適かと問われれば、「なかなかハードルの高い会社だな」と筆者は感じている。
なぜなら、会計上のルールのために、決算の数字が現在の業況とダイレクトに結びつかない構造になっているからだ。
まずは、会計上の決算による損益計算書の推移をみてみよう。

売上高も営業利益も、期によって増えたり減ったりを繰り返していたが、ここ3期ばかりは急激に増収増益となった。
コロナ禍の時期でも落ち込みが少なかったことは前述した通りだが、利益がそれほど大きく伸びたわけでもない。
なんとなくチグハグな印象だ。
事業セグメント別にみると、その理由が見えてくる。

利益の半分以上を稼ぎ出しているのは、会員権事業である。
リゾートホテルの会員権販売から上がってくる収益で、期によって大きく増減していることがわかる。
会員権事業の売上高・利益の変動が、会社全体の業績変動に大きな影響を与えるのである。
ホテルレストラン等事業は営業しているリゾート施設から上がってくる収益で、ルームチャージ、レストラン売上、土産物の販売などが主な収益源だ。
会員が払う年会費や預り保証金の償却振替など、一般的なホテル事業にはない売上も含まれるが、おおむねホテルの営業実態を示すものと捉えられる。
2021/3期に大きな赤字を計上したのは、もちろんコロナ禍による稼働率低下が原因だ。
メディカル事業は、リゾートホテルとは別に会員制で運営している健康診断、有料老人ホーム(シニアレジデンス)等の事業である。
では、会員権事業の変動はなぜ大きいのか?
それは、会員権の売上高計上時期が複数回に分かれているからだ。
次図をみてほしい。
未開業物件(ホテル)会員権の売上計上方法

出所:リゾートトラスト「事業の本質と成長戦略」2026.5
会員権の売出しは施設の着工とともに始まることが多いので、施設が完成するまでは購入者に契約不動産を引渡しすることはできない。
引渡しがなければ売買取引は完遂しないから、受領した不動産代金部分は施設開業後にやっと売上に計上することができる(それまでは前受金としてB/S負債に計上)。
このため、上図のように、契約時(登録料部分)と開業時(不動産代金部分)に分けて売上高として計上されることになる。
施設開業が多い期には売上高・利益は膨らみ、少ない期にはその逆になる、ということなのだ。
だから、会員権事業は期ごとの変動が大きくなる。
会員権の販売自体に好不調があっても、それがすぐに会計上の決算に反映されるわけではない。
この点が、会計処理に詳しくない投資家には分かりづらい。
なお、会員権販売金額のうち1割程度は、長期預り保証金として負債計上され、30年あるいは50年を掛けて償却し、少しづつホテルレストラン等事業の売上高に計上される。
会員権1口当たりで見た場合のキャッシュフローについてのイメージ図もあったので、引用しておこう。

出所:リゾートトラスト「事業の本質と成長戦略」2026.5
施設の開業前後までキャッシュイン・キャッシュアウトが大きく、開業後は稼働率が大きく落ち込まないかぎり毎年安定的に収益を見込める、という構造だ。
一般のホテルとの決定的な違いは、初期投資の回収が開業時にほぼ終わっていることである。
ビジネスモデルを映し出すB/S
これまでみてきたリゾートトラストの会員制リゾートホテル事業は、独特の貸借対照表(B/S)を形成している。
同社のビジネスを理解するためには、B/Sの見方はきちんと抑えておくべきだろう。

まず、資産面。
「有形固定資産」が大きいのは、リゾートホテルを多く抱えるビジネスだから当然ではある。
客室は分譲していても、共用部分やレストランなどの付帯施設はリゾートトラストが保有しているからだ。
「投資その他」では投資有価証券や繰延税金資産が大きい。
一般のホテルではあまり見かけないのは、「貸付金・割賦売掛金」だろう。
これは子会社を通じて、会員権購入者に購入資金を融通した債権(3~5年の分割払い契約)を計上したものである。
回収されると現預金に振り替わっていく。
「棚卸資産」は、販売中の会員権の対象である不動産が多くを占める。
完成済みの物件なら販売用不動産、建設中の物件なら仕掛販売用不動産として計上されている。
販売されれば、将来、売上原価に計上される。
一方、負債面では、濃いグレーで示した科目「前受金」「前受収益」「長期預り保証金」の3つが目立つ。
簡単に解説すると、
「前受金」=未開業ホテルの会員権販売代金における不動産部分、メディカル事業で受け取る登録料・入居金など
「前受収益」=会員が払う年会費、保証金
「長期預り保証金」=会員権販売代金の一部で、長期間で償却(2000年頃以前の商品では退会時返還もあり)
これらは、将来的に売上に計上されていく点で共通点がある。
特に、前受金は施設の開業時に売上高に計上されるので、決算期によって変動しやすいことに注意したい。
2026/3期の「長期有利子負債」は2019/3期の半分以下にまで縮小した。
コロナ禍以降の人気の高まりで、会員権価格が上昇しているにもかかわらず販売が好調なため、資金繰りがずいぶん楽になったのだろう。
業況を手っ取り早く知るには、このデータに注目せよ
会計上の売上高や利益が、会員権の販売時期とはズレて計上されることがリゾートトラストの決算の特徴であることは、理解していただけただろうか?
要するに、決算だけみていても、この会社の業況は十分把握できないということである。
何か、もっと業況がわかりやすいデータはないのか?
そこで注目したいのが、会社公表の決算説明資料に掲載されている、評価売上高、評価営業利益、それに会員権年間契約高の3つである。
評価売上高と評価営業利益は、計上時期の繰延や収益認識基準の変更による影響を取り除いた売上高・営業利益である。
簡単にいえば、「当該期に販売された会員権のみの売上・利益を将来繰越分も含めて算出し、年会費やルームチャージ・レストラン売上など他の売上高と合算したもの」といえるだろう。
会員権年間契約高は、その期に契約された会員権の金額である。
この3つの指標を追っていれば、リゾートトラストの業績がどういう方向に動いているのかをかなり読み取ることができる。

2021/3期こそ新型コロナウイルスの影響があって低調だったが、それ以降はどの指標も右肩上がりだ。
リゾートトラストは、2021年より新しく“サンクチュアリコート”という新ブランドを展開し始めた。
この会員権販売が非常に好調で、ホテル完成前に完売が続出し、直近期でも過去最高を更新している。
それがデータに如実に現れているのだ。
現在の会員権販売の好調さが決算上の売上高や利益に本格的に反映されるのは、ホテルが開業する2028年度以降になる。
会員制ビジネスの成長は、会員がどれだけ増えていくかにかかっている。
この会社の場合には、会員権の販売が順調に進むことが不可欠だといえるだろう。
そんなわけで、当社の実態を知りたい方には、決算短信だけでなく、決算説明資料の記述に目を通すことをオススメしたい。

