ショーボンドホールディングス(建設)
「造らない建設会社」。
ショーボンドホールディングスが制作した統合報告書2023年版の冒頭に出てくる言葉である。
同社は建設業界に属していながら、新築を手がけず、もっぱら道路など社会インフラ構造物の補修・補強に特化した事業を行っているというユニークな存在だ。
創業は1958年で70年近い業歴をもつが、創業以来ほぼ一貫して社会インフラ構造物のメンテナンス専業でやってきた。
社名は、同社が1959年に開発した土木建築用合成樹脂接着剤「ショーボンド」に由来する。
道路のメンテナンス工事が主力事業
ショーボンドホールディングスの売上高は、約9割を工事売上高が占め、1割程度が工事材料売上高となっている。
工事の受注先は地方自治体や国交省といった行政機関中心だったが、2020年以降は高速道路会社からの受注が急速に拡大し、2024/6期では3分の2を占めるまでになった。
テレビCMなどで、“高速道路リニューアルプロジェクト”について聞いたことがある方は、読者にも少なくないだろう。
我が国では、高度経済成長期に建設された高速道路は既に50年近くが経過しており、大規模な補修・補強工事が必要とされる時期にある。
NEXCO3社及び首都・阪神・本四の高速道路会社が、6社合計で5.5兆円ものリニューアル工事を実施している最中にあるのだ。
そのおかげで、地方自治体からの道路メンテナンス工事の受注額が、財政難や地方公務員の技術系人材不足を背景に伸び悩んでいながら、全体としては好調な業績を維持できている。
高速道路リニューアルプロジェクトは2030年頃まで続き、新たに1.5兆円の更新計画追加の発表があったので、当分このような状況は継続するであろう。
10期連続増収増益、しかも高利益率
ショーボンドホールディングスは、筆者が考える優良企業の4条件(「私が考える優良企業の条件」参照)をすべて満たす会社である。
まず、条件「持続的な業績向上」についてみてみよう。
ご覧の通り、業績拡大がずっと続いていて、2024/6期で10期連続の増収増益になる。
競争入札で案件を獲得するのが原則で、かつ景気の波にも左右されやすい業種でありながら、増収増益を長期にわたって続けているのは立派である。
さらに、安定成長を続けているだけでなく、業界で圧倒的な高収益企業であることがショーボンドホールディングスの大きな特徴である。
条件「高収益な事業」も満たしているのだ。
道路工事を主力事業としていて売上高の規模がショーボンドに比較的近い日本道路、東亜道路工業、及び法面や地盤改良をなど特殊土木に強みをもつライト工業を比較対象として、売上高営業利益率を比較してみよう。
20%の売上高営業利益率は、他社を大きく引き離している。
高速道路の大型案件受注が増えているせいか、利益率は近年さらに上昇している。
高収益の理由は、売上原価率の低さにある。
連結ベース売上原価の詳細な内容は公表されていないため、これ以上の財務分析は難しいが、ショーボンドが他の建設会社とは一線を画す存在であることは間違いない。
あくまで推測であるが、ショーボンドが特化する道路メンテナンス工事の分野は、新築に比べて工事規模が小さいために全国的規模の中堅・大企業の参入が少なく、競争が比較的緩やかであるのかもしれない。
競争入札参加者が限られれば、安値受注で採算が厳しい工事をしなければならない機会も少なくなるだろう。
道路メンテナンスに特化するニッチ戦略が、高収益体質を支えているといえるのではないか。
財務基盤は盤石、株主還元も積極的
条件「堅固な財務基盤」の面でも、ショーボンドホールディングスは優等生だ。
自己資本比率はほぼ80%で、有利子負債はなく、負債を上回る現預金を保有している。
業種柄、売上債権が大きいが、その大半は工事の進捗に応じて計上される収益に関連するもので、受注先は高速道路会社や行政機関だから、回収にはまったく問題はない。
有価証券の金額がやや大きいことが目を引くが、どうやら社債を購入しているようだ。
購入と償還の状況によって金額が毎期変動している。
業務上付き合いがあるゼネコン、材料メーカーなどが発行したものとみられる。
最後の条件「株主・投資家を大切にする経営姿勢」についても、ショーボンドホールディングスは積極的である。
好調な業績を背景に、2024/6期で15期連続の増配を達成した。
配当性向は50%を維持している。
2025/6期には連続増配に加えて自己株式取得を行い、総還元性向は80%以上となる見込みだ。
さらに、8月に発表した中期経営計画でも、総還元性向80%を維持していく方針を打ち出している。
「社会になくてはならない会社」
ショーボンドに不安があるとすれば、高速道路リニューアルプロジェクトが一段落する2030年以降、売上高は現在の規模を維持していくことができるのか、ということであろう。
筆者は、あまり心配する必要はないと思う。
なぜなら、社会インフラの老朽化は今後ずっと我が国の課題であり続けるだろうし、“メンテナンスのプロ”としての豊富な知見と高度な技術をもつ同社の活躍機会はますます増える、と考えるからだ。
同社も、その中期経営計画の中で、道路分野以外にも鉄道、港湾などの周辺領域の開拓を意識している。
また、海外事業の強化も視野にあり、三井物産と合弁でインフラメンテナンス会社を2019年設立し、海外需要を取り込むことを目指している。
「社会になくてはならない会社」として、その存在価値が揺らぐことはないだろう。