【企業比較】REITと貸ビル会社

企業比較してみた

REIT相場はずっと低迷が続いている。

東証REIT指数の直近3年間のチャートは、「少し反発しても、すぐに下落する」の繰り返しで、安値を切り下げながら右下がりになっている。
現在も未だ底値が見えない状況だ。

この間はコロナ禍が収束に向かい、社会経済活動が回復する過程であって、不動産賃貸借の状況も好転していたはずである。
なのに、なぜこれほど長期にわたってREITの投資口価格は下落を続けるのだろうか?

REITの価格低迷の原因としてよく挙げられるのが、日銀の利上げ観測である。
日銀がゼロ金利政策を終了し、今後は政策金利を利上げしていくと見込まれる。
そうなると、有利子負債が多額にのぼるREITは金利負担が増え、コストが増大して分配金の減少につながることが懸念される。

加えて、債券金利の上昇によってREITと債券の利回り差が縮小し、金融商品としてのREIT需要が減退する可能性が高まる。

だが、それならREITと同じく不動産賃貸業を営む企業はどうなのか?
やはり、株価は低迷しているのか?

そもそも、REITと不動産賃貸企業の決算には、どのような差異があるのだろうか?

色々と疑問が湧いてきたので、比較してみることにした。

大和証券リビング投資法人と平和不動産を選定

比較がしやすいように、決算期が同じ3月(REITは6ヵ月決算が主流なので9月と3月)で、総資産規模がほぼ同じREITと貸ビル会社を選んでみた。
REITが大和証券リビング投資法人(以下大和証券Lリート)、貸ビル会社が平和不動産株式会社である。

両法人を簡単に紹介しておくと、大和証券Lリートは、名前の通り大和証券グループがスポンサーであるREITで、主として賃貸住宅とヘルスケア施設を投資対象としている。
2024/3期で、取得金額ベースでみて住宅2,876億円、ヘルスケア施設1,101億円を保有している。

平和不動産は東京・大阪・名古屋・福岡の証券取引所が入るビルの大家さんとして知られる。
全国主要都市で50棟以上のビルを保有し、600社以上のテナントを抱えている。
貸ビル業以外にも、賃貸マンションの建設・運用、札幌駅周辺の再開発事業、平和不動産リートの運営も手掛ける。

賃貸物件の中心が、大和証券Lリートは住宅・ヘルスケア施設、平和不動産はオフィスビルという違いはあるが、賃貸収入が収益の大きな部分を占めることは同じなので、比較には好適だろう。

ここで、REITの重要な特徴について確認しておきたい。
それは法人税に関わることである。

通常、企業は税引前当期利益に対して法人税が課せられる。
株主への配当は、法人税を差し引いた後の利益を基準に、そこから内部留保に回る分をさらに除いた残りを分配することになる。
税引後利益のうち、どれくらいの割合が配当金になるかの指標が配当性向である。
ちなみに、平和不動産の2024/3期の配当性向は、40.9%であった。

一方、REITは、当期利益の90%超を投資家に分配することなど一定の条件を満たせば、法人税は免除されることが法律で認められている。
つまり、収入から費用を差し引いた利益のほとんどは、分配金としてREITの投資主に還元されることになる。
同じ不動産賃貸業を営んでいても、投資家への還元がREITのほうが手厚いわけである

もっとも、利益のほとんどが分配金になれば、内部留保に回る利益は非常に少ないことを意味する。
だから、REITが新たに物件を取得しようとすれば、投資口を発行して新たに出資金を募るか、投資法人債や金融機関からの借入金など有利子負債による資金調達が必要となることが多い。

この特徴を踏まえた上で、REITの決算を見ることが求められる。

結構違うB/SとP/L

では、まず2024/3期末の貸借対照表(B/S)からみてみよう。

注:大和証券Lリートは6ヵ月決算のため、損益計算書は9月期と翌3月期を合算している

不動産賃貸業だから、両者とも不動産が資産の大部分を占めるのは予想通りだが、違いも結構大きいことがわかる。

まず、大和証券Lリートは「信託不動産」が最大金額の資産だが、平和不動産には見られない。
信託不動産とは、信託銀行等に信託された不動産物件のことで、物件の所有権は信託銀行等に移る代わりに、信託受益権という形で保有する(不動産信託)。
REITは不動産を保有する箱のような存在で、具体的な実務は外部にすべて委託される。
このため、不動産の管理運用をまるごと信託することが多いのだ。

次に、平和不動産は、不動産以外に「無形固定資産」や「投資その他」といった資産をそこそこ保有している。
決算書を読むと、無形固定資産は借地権の305億円、投資その他は投資有価証券の380億円が大きいことがわかる。
投資有価証券のうち、216億円は平和不動産リートの投資口である。
少額だが、流動資産には「販売用不動産」も見られる。

純資産は大和証券Lリートのほうが金額が大きく、比率が高い。
中身も違っていて、大和証券Lリートは純資産の80%強が出資金であるが、平和不動産は資本金は17%でしかなく、資本剰余金・利益剰余金が合わせて64%を占める。
このあたりは、先に触れた“内部留保に回せる利益の違い”という特徴が差異となって現れている。

損益計算書に目を向けると、両者とも営業利益額に大きな差はない。

ただ、総資産額がほぼ同じにも関わらず、売上高は平和不動産が大和証券Lリートの1.7倍となっている。
その理由は、売上高の推移をセグメント別にみたグラフでわかる。

注:大和証券Lリートは6ヵ月決算のため、9月期と翌3月期を合算している

平和不動産には不動産売却による売上が毎期相当な規模あり、2022/3期のように売上高全体を大きく押し上げることがある。
一方、大和証券Lリートには不動産売却はわずかしかない。

これは、売上高への計上方法の違いが関係している(平和不動産は販売用不動産の売上、大和証券Lリートは不動産売却益)が、本質的には、REITは物件をあくまで保有して運用することが事業の主目的であり、売却はポートフォリオ変更の一環という位置づけであることが大きいと思われる。
不動産売買自体を主目的にはしていないのである。

賃貸収益については、大和証券Lリートが着実に増加、平和不動産は凸凹ながら少し増加、といった傾向だ。

平和不動産は不動産売却の状況次第で業績は変動しやすく、大和証券Lリートはほぼ賃貸収益なので安定している、という推測ができそうだ。
実際、直近5期の推移はまさにそういう傾向が出ている。

注:大和証券Lリートは6ヵ月決算のため、9月期と翌3月期を合算している

不動産賃貸業中心ということで平和不動産を選んだのだが、それでも不動産売却によって業績が変動していることは意外だった。

純粋に賃貸収益だけを求めるのなら、REITを買うほうがいいということだろう。
変化は緩やかで、劇的に利益が増えたりすることはないが、堅実に分配金をもらえることは期待できそうだ。

キャッシュフロー計算書にも、REITの特徴は現れている

キャッシュフロー(CF)の推移を見ても、両者の差異は明確になる。

注目してほしいのは、2021/3期と2024/3期に、大和証券Lリートの投資CFのマイナス及び財務CFのプラスが膨らんでいることだ。

注:大和証券Lリートは6ヵ月決算のため、9月期と翌3月期を合算している

この2つの期では、期中に投資口の追加発行(公募増資と第三者割当増資)と複数物件の新規取得が行われている。
前者が財務CFの大幅プラス、後者が投資CFの大幅マイナスになって現れているわけだ。
営業CFはほぼ一定だが、不動産の売却があったときに少し増える傾向がある。

一方、平和不動産は期ごとに営業CFや投資CFの増減が大きく、一定していない印象を受ける。
やはり、開発事業や不動産売却額の大小の影響を受けやすいということだろう。

安定した営業CFがあり、物件の新規取得には増資や借入という財務CFで対応しているREITは、キャッシュフローが単純明快だといえそうだ。

業績の良いREITまで“売られすぎ”では?

REITと貸ビル会社の財務内容を比較してきたが、一方の業績が飛び抜けているというようなことはなく、両者とも利益を堅実に上げているといってよいだろう。
あくまで相対比較の話として、不動産賃貸に特化しているREITのほうがより安定性が高い、とは言えるだろうが・・・。

では両者の投資口価格・株価の推移はどうなっているのだろうか?
昨年末を起点とした増減を比較してみよう。

今年5月くらいまでは、平和不動産がやや優位であるものの、それほど大きな差はなかった。

それが、6月以降は平和不動産の株価が8月の大暴落以外では上昇基調にあるのに対し、大和証券Lリートの投資口価格はマイナス10%以下まで大きく下げている。
日銀の利上げ観測が強まった時期と一致する。

REIT相場全体の不振は、大和証券Lリートにも当てはまるということである。

しかし、大和証券Lリートの業績が悪化したわけではないのに、投資口価格が下げる一方なのは、どうも納得しがたい。
こんなに差が出る要因は、少なくとも法人内部にはどこにも見当たらない。
分配金も着実に増やしていて、利回りも十分魅力的だ。

業績とは関係なく、外部環境要因で投資家が敬遠しているからこうなっているわけなのだろうが、普通に考えれば“売られすぎ”だろう。

そもそもの話として、金利が少し上昇したところで、REITの経営に与える影響は緩やかだとも言われる。
REITは以前から金利上昇局面に備えて対策を打っていて、有利子負債は固定金利になっていることが少なくないし、償還・返済期限も分散が図られてきた。
いきなり金利負担が激増するようなことはないのだ。

個別の決算の内容をしっかり吟味して、堅調な業績推移を示しているREITについては、再評価してあげてもよいのではないだろうか?