テンバガーは意外なところに潜んでいる!?

投資のヒント

個人投資家にとって、テンバガー(株価が10倍に上昇した株式銘柄)を保有することは夢の一つだろう。
自分の銘柄選びが大成功した証しといえるからだ。

筆者の保有株からは、なかなかテンバガーが出てこなかったが、昨年ついに生まれた。
自動車用品を扱う中央自動車工業株式会社、「地味だけど優良企業」シリーズの第1回で取り上げた会社だ。
売上高は約400億円、グループの従業員数が300人ほどで、上場企業としてはこじんまりとした、まったく目立たない存在だろう。

ただ、歴史は古く、発足は1946年、株式上場は1977年以来間もなく50年になる。

主力商品は自社ブランドの車体コーティング剤などのケミカル商品、それにアルコール検知器である。
海外向けには、補修用の自動車部品を輸出している。

10年以上かけてテンバガーへ

まずは、中央自動車工業の株価の推移を長期でみてみよう。

株価チャート(株式分割調整後、月足、2025.4.18現在)

出所:株探

2011年時点では100円台だった株価が、じわじわと上昇した後、2017年以降上昇に拍車が掛かった。
半値程度に下落する局面も何度かあるが、それを乗り越えて上値を切り上げていくことがわかる。
そして、2023年から大きく飛躍した。

筆者が最初に同社株を購入したのは2011年、その後買い増ししたので、購入平均単価は148円である。
昨年1500円を超えてきたことで、テンバガーになってくれた。

テンバガーをもつことが意外と難しいのは、保有し続けることがなかなかできないからだ。
たいがいは株価が2~3倍程度になったところで、利益確定に走ってしまう。
あるいは、株価下落の局面で、値下がりに耐えきれずに売ってしまう。

中央自動車工業のチャートをみても、ここで売ってしまっても仕方ない、と思われる時期がいくつもある。
テンバガーをもつためには、強い忍耐力が必要なのだろう。

なぜ売らずにいられたか、と自分に問いかけてみると、中央自動車工業が常に割安高配当株であったことが大きいと思う。
株価が低迷していても、配当金が入ってくることで、我慢ができた。
値上がりしても、割安だから今は売るタイミングではない、と考えることができた。
もちろん、テンバガーになるという期待などは、端から持っていなかった。

これが最初からテンバガー狙いの高PERの成長株だったら、間違いなく途中で手放していただろう。

現在の中央自動車工業の予想PERは11.2倍、配当利回りは2.8%。
割安高配当株としての特徴は変わっていない、と言っていいだろう。

増収増益が続く業績

もちろん、株価が長期的に上昇し続けるためには、業績が好調であることが前提である。
その点で、中央自動車工業は文句ない実績を示している。

過去10期はずっと増収増益、コロナ禍もどこ吹く風、といった状況だ。
2025/3期も増収増益は確実で、計画より上振れするという予想もある(TIW企業調査レポート2025.3.31付)。

営業利益率が13.6%(2015/3期)から25.8%(2024/3期)まで高まっていることが、さらに凄い。

これを見ると、先ほどの株価チャートにあった半値近くの下落局面が、実は絶好の買い時であったことがわかる。

やはり、長期的には業績で株価は決まる、ということは真実なのだろう。

成熟産業から生まれるテンバガーもある

中央自動車工業の今後は、どうなるのだろう?

国内人口の少子高齢化や若者のクルマ離れで国内新車販売台数は頭打ち傾向にあり、市場が大きく伸びることはもう期待できない。

コーティング剤が主力商品であるかぎり、中央自動車工業の成長は続かないだろう、という見方は根強いと思われる。

しかし、筆者が同社株を取得した2011年頃にも同じような意見はあった。
結果としてテンバガーにまでなったのだから、その観測は大外れということになる。

中央自動車工業はただの商社ではなく、“開発型企業”を標榜している。
取り扱っている商品の多くは自社開発品で、市場に密着し、ニーズを先取りした独自商品を提供することを信条としている。
こうした特徴が、新車販売台数の増減に関わらず売上・利益を伸ばしてきた背景にある。

また、コーティング剤の主要顧客であるカーディーラーは、まだまだ開拓余地が残されているようだ。

成長が止まると断じるのは早計ではないだろうか。

「テンバガーは最先端の分野でしか生まれない」と考えることは間違いだと、同社は証明してくれた。
成熟産業であっても、やり方次第で売上や利益を伸ばし続けることは可能なのだ。

テンバガーは、狙って生むことはなかなか難しいが、じっと保有し続けていられる銘柄を探すのが、実は近道なのかもしれない。

中央自動車工業

Posted by Uranus